量子生化学

表紙
B.プルマン/A.プルマン著
江ア俊之 訳

ISBN978-4-8052-0934-9

B5判/752頁

\16,000+税


概要

本書『量子生化学』の原書 Quantum Biochemistry は、1963年に刊行されたこの分野の古典的名著である。量子生化学の基礎としての分子軌道法を解説した第T部と、生化学と関連の深い各種化合物への分子軌道法の応用を解説した第U部および第V部から構成されている。また付録には単純ヒュッケル法で計算された各種の生化学的物質の電子的指標(分子軌道のエネルギー、共鳴エネルギー、電子密度,結合次数)の値が収録されている。

付録に掲載した生化学的物質のリスト(254種)はこちら。

原著

Quantum Biochemistry(Interscience Publishers,1963)

著者

B.プルマン(Bernard Pullman、1919-1996)
ソルボンヌ大学を卒業。第二次大戦中はフランス軍将校としてアフリカ・中東で過ごし1946年パリへ戻った。1946年から1954年、フランス国立科学研究センター(CNRS)で研究に従事、1954年にソルボンヌ大学教授となった。1959年には、Institut de Biologie Physico-Chimique で 量子生化学部門を率い、1967年に創立された国際量子分子科学アカデミー(International Academy of Quantum Molecular Science)の設立メンバーでもある。400篇以上の論文を執筆し、1950年代から1960年代にかけて、量子生化学という新たな分野を開拓し、量子生化学を用いて多環芳香族炭化水素(PAH)の発がん性を予測するパイオニアとなった。

A.プルマン(Alberte Pullman、1920-2011、旧姓 Bucher)
理論量子化学者。1938年にソルボンヌ大学で研究を始めた。フランス国立科学研究センターでは計算分野にかかわり、1946に復員したB.プルマンと結婚し、1996年に夫がなくなるまで、共同で研究に従事した。B.プルマンともに、1950年代から1960年代にかけて、量子生化学という新たな分野を開拓し、量子生化学を用いて多環芳香族炭化水素(PAH)の発がん性を予測するパイオニアとなった。

訳者

江ア俊之
1947年名古屋市に生まれる。1966年愛知県立明和高等学校卒業。1970年京都大学薬学部卒業。1975年京都大学大学院薬学研究科博士課程修了。1976年〜1985年名古屋大学工学部応用化学科に大学院研究生として在籍。現在、江崎ゴム椛纒\取締役。専攻、理論医薬化学。訳書には、『定量薬物設計法』(1980)、『リチャーズ量子薬理学』(1986)、『コンピュータ分子薬理学』(1991)、 『分子モデリング』(1998)、 『化学者のための薬理学』(2001)、 『分子モデリング概説』(2004)、 『初心者のための分子モデリング』(2008)、 『定量的構造活性相関』(2014、いずれも地人書館刊)がある。

目次

第T部 生化学者のための分子軌道法
第1章 なぜ分子軌道なのか
第2章 基本的概念
 2.1 電子の波動力学的記述
 2.2 多電子系の表現
 2.3 原子軌道
 2.4 分子軌道のLCAO近似
第3章 共役分子
 3.1 非局在化π電子と多中心分子軌道
 3.2 共役系に対するLCAO近似の原理
 3.3 炭化水素類に対するヒュッケル近似
 3.4 ヒュッケル近似の精密化
 3.5 置換分子と複素環式分子
第4章 電子構造的指標の主な応用
 4.1 共鳴エネルギー
 4.2 最高被占分子軌道エネルギーと最低空分子軌道エネルギー
 4.3 遷移(励起)エネルギー
 4.4 反磁性異方性
 4.5 電子密度
 4.6 結合次数
 4.7 化学反応性
 4.8 自由原子価指標の補完的応用
 4.9 生化学への分子軌道アプローチ:その展望
 4.10 第I部の理解に役立つ一般的参考書
第U部 基本的な生化学的物質の電子構造
第5章 プリン類,ピリミジン類および核酸類の分子下構造
 5.1 核酸類の分子構造
 5.2 核酸類の生化学的役割
 5.3 生物学的に重要な関連プリン類と関連ピリミジン類
 5.4 プリン類とピリミジン類における互変異性
 5.5 共鳴エネルギーの重要性
 5.6 電子供与的性質と電子受容的性質
 5.7 局所的な構造的性質
 5.8 炭素原子の性質
 5.9 環窒素原子の性質
 5.10 プリン代謝拮抗物質の抗腫瘍活性
 5.11 プリン類やピリミジン類のアミノ基に関する反応
 5.12 金属錯体の形成
 5.13 キサンチンオキシダーゼによるプリン類の代謝的分解の機構
 5.14 放射能効果の構造的側面
 5.15 様々な反応
 5.16 概観
第6章 共役系としてのタンパク質
 6.1 タンパク質の分子構造
 6.2 タンパク質の生化学的役割
 6.3 エネルギーバンドの存在とタンパク質の半導体的性質
 6.4 芳香族アミノ酸残基の電子的性質
第7章 高エネルギー化合物
 7.1 生体エネルギー学の基本的概念
 7.2 高エネルギー物質の主なタイプ
第8章 プテリジン類
 8.1 一般的役割
 8.2 リボフラビンと葉酸の代謝
 8.3 電子的性質
第9章 ポルフィリン類と胆汁色素類
 9.1 ポルフィリン類
 9.2 胆汁色素類
第10章 共役型ポリエン類
 10.1 カロテノイド類とビタミンA類
 10.2 レチネン類と視覚色素類
第11章 キノン類
 11.1 一般的特徴
 11.2 生物学的に特に重要なキノン類
 11.3 メラニン類のバンド構造
第V部 酵素反応の電子的側面
第12章 酵素反応の一般的側面
第13章 酸化還元酵素
 13.1  電子伝達系
 13.2 呼吸補酵素の電子供与的性質と電子受容的性質
 13.3 ピリジンタンパク質の機能機作
 13.4 フラビンタンパク質の機能機作
 13.5 分子軌道と酸化還元電位
 13.6 生化学的に重要な有機染料の酸化還元的性質
 13.7 シトクロム類
 13.8 酸化的リン酸化
第14章 葉酸補酵素類
 14.1 一般的特徴
 14.2 葉酸補酵素類によって触媒される主な代謝的反応
 14.3 葉酸補酵素の主な機能:一般的概念
 14.4 1炭素単位の担体としての葉酸補酵素:実験的データ
 14.5 1炭素単位の担体としての葉酸補酵素類:電子的側面
 14.6 1炭素単位の酸化還元反応に対する基質としての葉酸補酵素類
 14.7 葉酸とその補酵素類の酸化還元的変換
 14.8 葉酸代謝拮抗物質
第15章 ピリドキサールリン酸酵素類
 15.1 一般的側面
 15.2 Braunstein-Snell理論の概要
 15.3 電子的解釈
第16章 チアミン-ピロリン酸触媒型反応
 16.1 チアミン-ピロリン酸酵素類の主な機能
 16.2 作用様式の理論
 16.3 電子的側面
第17章 酵素的加水分解
 17.1 酵素的加水分解における基質の一般的特徴
 17.2 加水分解酵素類の活性部位の一般的特徴
 17.3 エステラーゼ類に対する有機リン剤の電子的構造と活性
第18章 結論:電子の非局在化と生命の過程
付録 (単純ヒュッケル法で計算された各種の生化学的物質の電子的指標:分子軌道のエネルギー、共鳴エネルギー、電子密度、結合次数の値)