定量的構造活性相関

Hansch法の基礎と応用
表紙
C.ハンシュ/A.レオ 著
江崎俊之 訳


ISBN978-4-8052-0866-3

B5判/584頁

定価(本体10,000円+税)



概要

 定量的構造活性相関(Quantitative Structure-Activity Relationships, QSAR)は、化学物質の骨格的構造と薬学的あるいは毒性学的な生理活性との間になりたつ量的関係である。医薬品開発などの分野で、いくつかのパラメータを用いて構造的に似た化合物の薬効について予測し、創薬に結びつけることを目的としている。Corwin Hansch によって研究が始められ、1964年に Hansch と藤田稔夫が発表した方法が代表的な方法として知られる。
 本書は、定量的構造活性相関領域における最も重要な手法である Hansch 法の基礎と応用について、そのすべてを解説した参考書である。著者の Hansch は、Hansch 法の創始者であり、Leo は Hansch 博士の最大の協力者の一人である。創始者によって執筆された本書は、Hansch 法に関する解説書の決定版としての内容を備えている。Hansch 法、特にその中心をなす分配係数の考え方は、現在、医薬品化学、農薬化学、毒物学、環境化学などの分野で広く応用されている。Hansch 法は、数学的には重回帰分析の応用である。そのため、初心者でも容易に理解でき、かつ適用範囲が広いのが特徴である。本書の応用編では、酵素-リガンド相互作用、薬物代謝、抗腫瘍薬、中枢神経系作用薬、抗微生物薬、農薬(除草剤、殺虫剤)などへの QSAR の応用が取り上げられている。本書は、医薬品化学や農薬化学などの創薬科学における古典的必読文献と言える。

原著

Exploring QSAR: Fundamentals and Applications in Chemistry and Biology (American Chemical Society,1995 )

著者

 C.ハンシュ(Corwin Hansch) 合成有機化学の分野で1944年、ニューヨーク大学よりPh.D.の学位を得た。イリノイ大学に博士研究員として在籍した後、デュポン社に入社。その後、シカゴ大学などでマンハッタン計画に参画。1946年、ポモナ大学化学科に迎えられ、ポモナ大学を研究・教育活動の拠点とした。主な研究分野は、高温脱水素環化反応と化学構造と生物活性との相関。2011年没(92歳)。

 A.レオ(Albert Leo) 1925年にイリノイ州ウィンフィールドで生まれ。2年間をアメリカ陸軍幼年学校で過ごし、1944〜1945年、欧州戦線(ETO)で兵役。シカゴ大学で物理有機化学の修士号と博士号を取得し、反応速度論を学んだ。食品化学の研究開発に15年間従事したのち、ポモナ大学で前任のCorwin Hansch教授の指導の下、MedChemプロジェクトを立ち上げ指揮。このプロジェクトで生物活性化合物の設計に役立つソフトウェアとデータベースを開発した。

訳者

江崎俊之(えさき・としゆき)
1970年京都大学薬学部卒業、1975年京都大学大学院薬学研究科博士課程修了。現在、江崎ゴム(株)医薬研究室室長、科学技術振興機構(JST)永年協力抄録員((株)住化技術情報センター所属)、米国化学会会員(医薬品部会)、薬学博士。専攻、理論医薬化学。訳書には、『定量薬物設計法』(1980)、『リチャーズ量子薬理学』(1986)、『コンピュータ分子薬理学』(1991)、 『分子モデリング』(1998)、 『化学者のための薬理学』(2001)、 『分子モデリング概説』(2004)、 『初心者のための分子モデリング』(2008、いずれも地人書館刊) がある。

目次

第1章 有機反応に及ぼす電子効果
 1.1 Hammett式
 1.2 Hammett式の限界
 1.3 グループ間共鳴(σ0,σ,σ+)
 1.4 場誘起効果
 1.5 誘起効果と共鳴効果の分離
 1.6 湯川-都野式
 1.7 ラジカルのσ定数
 1.8 リンに付いた置換基に対するσ(σφ)
 1.9 アリール値(σa)
 1.10 最近作られた電子パラメータ
 1.11 Hammett式と熱力学
 1.12 分子軌道パラメータ
 1.13 まとめ
第2章 Hammett式とその拡張形の応用
 2.1 序論
 2.2 温度,圧力および溶媒の効果
 2.3 フェノール類とチオフェノール類のイオン化
 2.4 置換基効果の伝播
 2.5 ソルボリシス
 2.6 求核置換
 2.7 求電子置換
 2.8 脱離反応
 2.9 付加反応
 2.10 分子内カチオン転位
 2.11 ラジカル反応
 2.12 酸化還元反応
 2.13 まとめ
第3章 有機反応に及ぼす立体効果
 3.1 序論
 3.2 立体効果へのTaftのアプローチ
 3.3 Esの定義の修正
 3.4 sterimolパラメータ
 3.5 立体パラメータとしての分子屈折度
 3.6 比較分子場解析(CoMFA)
 3.7 物理有機化学における立体パラメータの応用
 3.8 まとめ
第4章 疎水パラメータ:測定と計算
 4.1 序論
 4.2 疎水パラメータとしての分配の歴史
 4.3 その他の平衡定数や物理定数からの計算
 4.4 溶質構造からの計算
 4.5 フラスコ振とう法によるオクタノール-水分配係数の測定
 4.6 結論
第5章 フラグメント法によるオクタノール-水分配係数の計算
 5.1 歴史およびCLOGPソフトウェアの開発
 5.2 結合環境
 5.3 フラグメントの種類
 5.4 補正因子
 5.5 互変異性体
 5.6 双性イオン
 5.7 イオン対
 5.8 現状と結論
第6章 非特異的毒性のQSAR
 6.1 序論
 6.2 モデル系のQSAR
 6.3 傾きが1に近い線形QSAR
 6.4 傾きが1よりも小さい線形QSAR
 6.5 大きな切片をもつ線形QSAR
 6.6 動物個体に対する線形QSAR
 6.7 非特異的活性に対する非線形QSAR
 6.8 非特異的毒性への他のアプローチ
 6.9 類似性の経験的モデル
 6.10 逆疎水効果
 6.11 環境毒性
 6.12 まとめ
第7章 蛋白質と酵素のQSAR
 7.1 モデル系
 7.2 蛋白質-リガンド結合のQSAR
 7.3 非特異的酵素阻害のQSAR
 7.4 特異的酵素-リガンド相互作用のQSAR
 7.5 まとめ
第8章 代謝のQSAR
 8.1 序論
 8.2 薬物代謝の諸相
 8.3 第U相の過程
 8.4 シトクロムP450の結合性と誘導
 8.5 ミクロソーム酸化のQSAR
 8.6 ミクロソーム阻害のQSAR
 8.7 グルクロン酸抱合
 8.8 フェノールスルホトランスフェラーゼ(PST)による硫酸化
 8.9 グリシンとの抱合
 8.10 排泄
 8.11 まとめ
第9章 変異誘発,発癌および抗腫瘍薬のQSAR
 9.1 序論
 9.2 変異誘発
 9.3 発癌
 9.4 癌化学療法
 9.5 まとめ
第10章 中枢神経系作用薬のQSAR
 10.1 序論
 10.2 血液脳関門(BBB)
 10.3 プロドラッグ類
 10.4 非特異的中枢神経系作用薬
 10.5 全身麻酔薬
 10.6 抗痙攣薬
 10.7 中枢神経系興奮薬
 10.8 セロトニン受容体のQSAR
 10.9 まとめ
第11章 抗微生物薬のQSAR
 11.1 序論
 11.2 抗ウイルス薬のQSAR
 11.3 抗細菌薬のQSAR
 11.4 抗原虫薬のQSAR
 11.5 抗真菌薬のQSAR
 11.6 まとめ
第12章 農薬のQSAR
 12.1 序論
 12.2 除草剤
 12.3 殺虫剤
 12.4 まとめ
第13章 生物活性化合物の設計に関するノート
 13.1 序論
 13.2 生物学的等価性
 13.3 置換基の選択
 13.4 QSARの構築
 13.5 新しいリード化合物の探索
 13.6 回帰分析
 13.7 まとめ