弊社では毎年11月、次年度の『天文観測年表』を刊行してきました。このたび、たいへん残念ではありますが、現在市販されている「2009年版」をもちまして刊行を休止し、「2010年版」は刊行されないことになりましたのでお知らせいたします。『天文観測年表』は年度版という定期刊行物でしたので、廃刊ということになります。毎年購入していただいている読者のみなさまには、たいへん申し訳ございません。お詫び申し上げます。
『天文観測年表』は、1968年10月に弊社の雑誌『天文と気象』の臨時増刊号として『1969天文気象現象(年鑑)』として刊行されました。その前年の『天文と気象』11・12月合併号の「巻末特集」として「天文気象年鑑」という記事(全96頁)を掲載し、これを契機として翌年(1968年)本誌の臨時増刊となっています。1970年度版からは『天文と気象』の「別冊」となり、1972年版からは現在の『天文観測年表』という名称になりました。
当時は現在のように、手軽にコンピューターを使うということはできませんでしたので、原稿作成においても組版作業においても、いわゆる手作業が中心でした。執筆者自身が計算して作成する各種の表も、また、権威ある天体暦(英米暦、天体位置表)から必要に応じて抜粋した表も、手書きで作成されていたとのことです。さらに、掲載される図やグラフの原稿も、すべて手書きでした。組版においても活版が主流でしたので、校正作業は弊社編集部員総出で行なっておりました。アマチュア向けの詳しい天文データが入手しにくかった当時、『天文観測年表』は簡単に手に入る付加価値の高い天文年表として好評を得ました。
『天文観測年表』が創刊されて10年ほど経過した1978年5月には、雑誌『天文と気象』の別冊として『天体観測ガイド』(下保茂著)が刊行されています。これは「天文観測年表の使い方」とサブタイトルにもあるように、『天文観測年表』の各種データをどう活用するかを解説した内容で、こうした解説書が成り立つ発行部数が『天文観測年表』の方にあったことを示しています。
1990年代に入ると、パーソナル・コンピューターが普及し、『天文観測年表』の原稿作成、組版作業にも変化が見られるようになりました。執筆者から送られたたデータを組版用に変換するシステムが可能になると、手書き原稿や校正スタイルは一新され、編集・製作は合理化されました。今世紀に入ると、インターネットが爆発的に普及し、『天文観測年表』に掲載されている各種データにも、ユーザーがそれぞれ直接アクセス可能になり、書籍形態の数表は、その存在意義を相対的に低下させることとなりました。実際、他分野でもたとえば、ある時期までには理科系業務従事者には必携のものであった対数表とか三角関数表のような“書籍”は存在しなくなりました。
現在、読者のみなさまもよくご存知のように、『天文観測年表』に掲載されるデータのほとんどはインターネット上のしかるべきサイトからダウンロードによって入手可能になっていますし、各種の天文用ソフトウエアによって計算することも可能です。本書を購入する意味は、それらが書籍形態でまとめられているという便利さと、各執筆者による解説および前年度の記録が読めるというだけになっています。また、長年続けて購入している読者は、それが“揃っている”という資料的意味もあるかもしれません。
こうした状況において、実売部数は毎年確実に減少しており、現在弊社に資料の残っている1990年当時の部数を比べても5分の1程度になっていますし、それ以前の発行部数と比べればさらに減少幅は大きくなっています。この間、部数の減少に応じて、雑誌の「別冊」から「書籍」形態にする、価格を上げるなどの措置でしのいできましたが、ここにいたって、商業的出版物としては成り立たない状況に陥りました。
天文学関連の書籍は『天文観測年表』創刊当時の40年前と比較すると数多く出版されるようになり、天文・宇宙の知識を得ようとする読者は増えていると思われます。しかし、天体望遠鏡を購入し、弊社の『天文観測年表』をその観測に利用するような意味での天文ファンは確実に減少しています。今年は世界天文年であり、7月22日には日本で皆既日食が見られ、これを機に天文ファンが増えて欲しいのですが、現状は厳しいようです。
毎年購入していただいている読者のみなさまに対してはたいへん心苦しいのですが、40年間継続して刊行していた『天文観測年表』も、ここ10年ほど前からは採算割れの状態のまま無理矢理刊行してきたという側面もあります。どこかで撤退しなければならない状況で、現在がいわゆる“潮時”だと判断いたしました。ご理解いただければ幸いです。
なお、毎年同時期に刊行している『天文手帳』は、おかげさまで『天文観測年表』とは桁違いの数の読者に支えられており、今後も継続して刊行してまいります。また、半世紀にわたって多くの読者から好評を得ている天文関連書籍も、そのニーズを把握しながら継続的に刊行していく予定です。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申しあげます。
2009年7月1日
地人書館編集部
編集部長 永山幸男
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