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◆『天文手帳』に使われている主な天文用語

■暗縁出現(あんえんしゅつげん) 星食で月の暗縁側から対象となる星が現れて見え始めること。満月以降の星食では、一般的に、明縁潜入・暗縁出現となる。観測する際には、月面の暗縁側のどこから出現するかその場所をあらかじめ把握しておく必要がある。

■暗縁潜入(あんえんせんにゅう) 星食で月の暗縁側に対象となる星が入って見えなくなること。満月以前の星食では、一般的に、暗縁潜入・明縁出現となる。星食の対象となる星は月のすぐそばにあるので観測しやすい。

■遠日点(えんじつてん) 太陽系内の天体が、太陽を一つの焦点とする楕円軌道上を運動するとき、太陽から最も遠ざかる点のこと。反対に、太陽から最も近い点は近日点という。円軌道の場合、太陽からの距離は常に等しいため、遠日点や近日点は存在しない。また、放物線軌道や双曲線軌道では、近日点は存在するが遠日点は定義されない。

■外合(がいごう) 水星と金星が太陽より遠くにあって、太陽と同じ方向に見えるときをいう。水星と金星は地球より内側を回っているため、地球から見て太陽と正反対側に見えること(衝)はないが、太陽と同じ方向に見える合には2種類ある。一つは、太陽の向こう側にあって合になる外合、もう一つは、太陽の手前にあって合になる内合である。外合のときには惑星は満月のように丸く見えるが、遠いために見かけの大きさは小さい。ただし、太陽と同じ方向にあるので事実上、観測は不可能である。

■下弦(かげん) 視黄経で測って太陽から東に270°離れている月をいう。見かけ上、月の東半分が光って見える半月で、真夜中に東の地平線から出て、明け方に南中し、昼頃に西の地平線に沈む。

■逆行(ぎゃっこう) 天球上の天体の見かけの運動について、東から西に向かう動きを指す。地球から見る場合に、天球上で、内惑星は内合を中心とするある期間、外惑星については衝を中心とするある期間、逆行をするが、それ以外の期間は順行である。

■極小(きょくしょう) 食連星(食変光星)で、連星系のうち、明るい方の星(主星)の手前を暗い方の星(伴星)が通過して、連星系の明るさが最小になる現象およびその時刻。これは「主極小」と呼ばれ、反対に主星が伴星の前を通過して連星系の明るさが暗くなるときは「副極小」という。本書の「天文カレンダー」では、ペルセウス座β星(アルゴル)とてんびん座δ星、おうし座λ星の観測しやすい主極小の予報時刻を掲載している。なお、いくつかの主極小時刻の観測結果から、その食連星の変光周期などを求める場合、季節によってその星からの光が届く時間が異なるため、極小時刻については日心時刻(太陽中心での時刻)を考慮して計算しなければならない。

■極大(きょくだい) (1) 流星群の場合、その流星群の活動がもっとも活発になる現象およびその時刻。その流星群に属する流星数の増え方、減り方は、それぞれの流星群によって異なる。また、その流星群の母彗星などの回帰などと関連して、極大時の流星数は増減が大きい。(2) 長周期変光星の場合、周期的に変化する光度が最も明るくなる現象およびその時期。長周期変光星の変光周期は一定ではなく極大光度も変動し(「天文カレンダー」に掲載されている周期と変光範囲は、長年の観測による平均値)、極大日が日単位で明確に定まるわけではないので、本書の「天文カレンダー」では「極大のころ」と表記している。

■近日点(きんじつてん) 太陽系内の天体が、その軌道上で太陽に最も近づく点のこと。太陽系天体の軌道は、離心率により円軌道、楕円軌道、放物線軌道、双曲線軌道に分けることができる。これらの軌道上の点の中で、太陽から最も近い点が近日点である。反対に、太陽から最も遠い点は遠日点という。円軌道の場合、太陽からの距離は常に等しいため、近日点や遠日点は存在しない。また、放物線軌道や双曲線軌道では、近日点は存在するが遠日点は定義されない。

■月面 X(げつめんえっくす)月面の南緯25.5度、東経1.1度の地点が明暗境界線となる頃に見られる、英語のアルファベット“X”に似た地形の呼び名。ブランキヌス、ラカイユ、プールバッハの三つのクレーター壁によってできた地形で、カナダのアマチュア天文家デイヴィッド・チャップマンが、天体観望会での準備中(2004年8月22日21時頃、現地時間)に気づき、そのことをカナダの天文雑誌『スカイニューズ』やインターネットで報告して天文ファンに注目されるようになった。

■月齢(げつれい) 直前の新月から経過した時間を日単位で表した数値。上弦、満月、下弦などは、太陽との位置関係で決まり、そのときの月齢は、月の軌道が楕円であるため満ち欠けの速度が一定にはならないことなどの理由で一定にはならない。

■合(ごう) 二つの天体が同じ方向に見えること。惑星現象で単に合といった場合は、太陽との合を指すのが普通である。太陽との合の前後数週間は太陽に近くて、その惑星の観測には適さない。明るい惑星どうしの合や、明るい惑星と恒星の合は、一般の人々にも目につきやすく、見て楽しむのによい現象である。内惑星と太陽との合については、内合と外合の2種がある。衛星については見かけ上、母惑星に対して衛星の軌道に垂直な方向に来るときを合という。この場合も内合と外合の2種がある。

■黄緯(こうい) 黄道座標で、目標点の位置を表わす変数の一つ。黄道と目標点の間の角距離。黄道座標上で、目標点Xをはさんで黄道の北極、黄道の南極を結ぶ大円を考え、その大円と黄道の交点をCとしたとき、観測点から見て、CとXとのはさむ角である。天球上で、大円に沿ってCからXまで測った角距離でもある。黄緯は、一般にβの文字で表わされる。黄道上の点の黄緯はすべて0度であり、黄道の北極に向けて+、黄道の南極に向けて−の符号をつける。黄道の北極の黄緯は+90度、黄道の南極の黄緯は−90度であり、黄緯はすべて−90度〜+90度の範囲で表示される。太陽、月、惑星はいつも黄道付近に見え、その黄緯の絶対値はあまり大きくならない。

■黄経(こうけい) 黄道座標で、目標点の位置を表わす変数の一つ。黄道座標上で、目標点をはさんで黄道の北極、黄道の南極を結ぶ大円を考え、その大円が黄道と交わる点をCとするとき、観測点Oから見て、春分点γとCとがはさむ角である。黄道に沿って天球上を東回りに春分点γからCまで測った角距離でもある。黄経は一般にλの文字で表わされる。0〜360度まで角度単位で表わすのが普通であるが、ときにはマイナスや360度を越える角で表示されることもある。太陽系天体では、黄経が増加する動きを順行、減少する動きを逆行という。

■降交点(こうこうてん) 天体の軌道とある基準面との交点のうち、天体が基準面を上側から下側に通過する軌道上の点のこと。反対に、下側から上側に通過する点を昇交点という。太陽系内の天体の場合、基準面は地球の軌道面である黄道面にとることが多い。

■光度(こうど) 一般的には、光源からの単位時間に単位立体角に放射されるエネルギーを表す物理量であるが、本書では、恒星や惑星を地上から見たときの明るさ、すなわち天体の見かけの等級のことを示している。

■最大光度(さいだいこうど) 太陽系内の天体が、ある一定期間内で最も明るくなること、またはその時期のことで、通常、明るさの変化が大きい金星に対して使用する。金星の場合、内合の約一ヵ月前と一ヵ月後に最大光度がある。外惑星の場合、衝のときが最も明るくなるので、通常、最大光度とは言わない。

■最大離角(さいだいりかく) 水星や金星の太陽からの離角が極大になるとき、およびそのときの離角。水星と金星は地球よりも内側を回っているため、太陽からある角度以上離れない。最大離角時の太陽からの離角は、水星の場合、軌道が離心率0.2の楕円のため、現象ごとに大きく異なり、18°〜28°まで変化する。金星では軌道がほぼ円であるため、その離角は45°〜47°とほぼ一定である。

■視直径(しちょっけい) 通常、円に近い形に見える天体の見かけの直径のことで、角度の単位で表わす。惑星などでは、厳密には楕円体なので、視直径が赤道方向か極方向かを示す必要があり、また、視半径で表示することも多い。

■しぶんぎ座流星群(しぶんぎざりゅうせいぐん) 「四分儀」という名称は、この流星群の放射点が、壁面四分儀座(Quadrans Muralis)という星座中にあったためそう呼ばれる。その後、壁面四分儀座は現行の88星座に採用されなかったため、りゅう座ι流星群がこの流星群の正式な名称となったが、流星観測者は「四分儀座流星群」という名称を慣例的に使い続けてきた。2009年8月の国際天文学連合総会において、この流星群は「しぶんぎ座流星群」(Quadrantids)が正式な名称となり、日本の国立天文台なども「しぶんぎ座流星群」を正式な和名としている。

■順行(じゅんこう) 天球上の天体の見かけの運動について、西から東に向かう動きを指す。地球から見る場合に、天球上で、内惑星は内合を中心とするある期間、外惑星については衝を中心とするある期間、順行とは逆向きの動き(逆行)をするが、それ以外の期間は順行である。

■準惑星(じゅんわくせい) 国際天文学連合(IAU)が2006年の第26回総会で決議した新しい太陽系天体の種類。日本語訳が正式に決まるまで「矮惑星」という名称が一般的に使われていたが、2007年4月に「準惑星」とすることが決まった。定義は、太陽を周回する軌道にある球形の天体で、衛星でなく、軌道の近くに他の天体のあるものと解釈できる。例として、冥王星や、小惑星セレスがあげられている。

■衝(しょう) 惑星と太陽の視黄経または視赤経の差が180°になること。衝のとき、惑星は太陽の反対側に見えるため、一晩中観測できる。また、衝の頃に惑星は地球に最も近づき、最も明るくなる。ただし、火星は地球のすぐ外側を離心率の大きな軌道を描いて回っているため、衝の日時と最接近の日時は数日異なることがある。そのため、火星については、衝の日時と最接近の日時の両方が予報される。水星と金星は地球より内側を回っているため、衝はない。

■上弦(じょうげん) 視黄経で測って太陽から東に90°離れている月をいう。見かけ上、月の西半分が光って見える半月で、昼頃に東の地平線から出て夕方に南中し、真夜中に西の地平線に沈む。

■昇交点(しょうこうてん) 天体の軌道とある基準面との交点のうち、天体が基準面を下側から上側に通過する軌道上の点のこと。反対に、上側から下側に通過する点を降交点という。太陽系内の天体の場合、基準面は地球の軌道面である黄道面にとることが多い。

■新月(しんげつ) 月と太陽の視黄経が一致するとき、およびそのときの月を指す。太陽と同じ方向にあるので、この月を観測することはできない。

■西矩(せいく) 惑星が視黄経または視赤経で測って太陽より西に90°の方向に位置するときをいう。西矩のときには惑星は日の出の頃に正中する。

■星食(せいしょく) 月が恒星や惑星を隠す現象。隠される天体が恒星の場合は恒星食、惑星の場合は惑星食と区別される。星食観測は、かつては月の運動の研究や離れ島の位置決定、暦表時の決定などに使用されたが、現在は、月縁の凹凸や恒星の座標系の誤差決定などに使用されている。また、潜入時、出現時のミリ秒単位の光度変化の観測から、恒星の視直径、表面の輝度分布や重星の分離などの研究も行なわれている。

■赤緯(せきい) 赤道座標の変数の一つ。一般にδの文字で表わされ、赤経αとともに天球上の目標点Xの位置を指定するために用いられる。観測点Oから見て、天の赤道とXとのはさむ角が赤緯δである。赤道座標上で、天の赤道から位置を表わすXまでの角距離になる。天球上では、天の赤道を基線とし、天の北極、目標点、天の南極を結ぶ大円に沿って、天の北極に向けてプラス、天の南極P′に向けてマイナスの符号をつけて測る。天の赤道上の点はすべて赤緯0度であり、天の北極の赤緯は+90度、天の南極の赤緯は−90度になる。したがって、赤緯は−90〜+90度の範囲で表示される。北緯φの観測点で天体が南の子午線を通過したときの高度をhとし、大気差の影響を無視すると、その天体の赤緯δは、δ=h+φ−90°で表わすことができる。

■赤経(せきけい) 赤道座標の変数の一つ。一般にαの文字で表わされ、赤緯δとともに天球上の目標点Xの位置を指定するために用いられる。目標点をはさんで天の北極、天の南極を結ぶ大円を考え、その大円が天の赤道と交わる点をCとするとき、観測点Oから見て、春分点γとCとがはさむ角が赤経αである。観測する立場からいえば、春分点γが観測点の子午線を通過してから、目標点が子午線を通過するまでの時間間隔を恒星時で表わしたものが、目標点の赤経αになる。同じことであるが、春分点γの赤経が0時であるから、地方恒星時αのときに子午線を通過した天体の赤経がαである。赤経を角度ではなく一般に時間で表示するのはこのためである。時間と角度との換算は、赤経の1時が角度の15°、赤経の1分が角度の15′、赤経の1秒が角度の15″にあたる。

■潜入(せんにゅう) 星食現象などで天体が見えなくなること。反対に、見えなくなっていた天体が見えるようになることを出現という。その天体が惑星のように大きさが認められる場合は、潜入や出現に時間がかかる。その場合は、潜入の始めを第一接触、潜入の終わりを第二接触、出現の始めを第三接触、出現の終わりを第四接触という。

■太陽黄経(たいようこうけい) ある時刻における天球上での太陽の位置を黄道座標で表わしたときの黄経の値。小寒、大寒、立春、……といった二十四節気は、この太陽黄経で定義されている。太陽黄経0度が春分、90度が夏至、180度が秋分、270度が冬至である。

■天の赤道(てんのせきどう) 地球の赤道面の延長が、天球と交わって作る天球上の大円。赤道座標の基準大円である。したがって、天の赤道自体が赤緯の基線であり、天の赤道上の点はすべて赤緯がゼロになる。また、天の赤道上にある春分点が赤経を測る基点になる。

■天文薄明(てんもんはくめい) 太陽の高度が−12°〜−18°のときに空に見える薄明かりおよびその時間。夕方、天文薄明が終わると、空の暗い場所では6等星が見えるようになる。明け方は、反対に天文薄明が始まると6等星が見えなくなる。

■東矩(とうく) 惑星が、視黄経または視赤経で測って太陽より東に90°の方向に位置するときをいう。東矩のときには惑星は日の入の頃に正中する。

■内合(ないごう) 水星と金星が太陽より近くにあって、太陽と同じ方向に見える現象。水星と金星は地球より内側を回っているため、地球から見て太陽と正反対側に見えること(衝)はないが、太陽と同じ方向に見える合には2種類ある。一つは、太陽の向こう側にあって合になる外合、もう一つは、太陽の手前にあって合になる内合である。内合のときには惑星は地球に近いため、見かけの大きさは大きいはずであるが、新月のように光っていない側が地球に向いており、しかも、太陽と同じ方向にあるので、事実上観測は不可能である。内合のときに惑星が太陽と地球の間に入ると太陽面通過を起こす。内合の前後に望遠鏡でその惑星を観察すると、三日月状に欠けた惑星を見ることができる。

■南中(なんちゅう) 天体あるいは天球上の目標点が日周運動によって移動し、天の子午線を東から西へ通過する現象。この瞬間に、天体の高度は最大に(極の下側を下方通過するときは最小に)なる。北半球の観測では、太陽、月、惑星などの子午線通過が一般に天頂の南側で起こることから、南中という。天頂の北側で起こる子午線通過も含めて、正中ともいわれる。

■薄明(はくめい) 日の出前および日没後に空に見える薄明かりをいう。地平線下にある太陽の光が地球の上層大気に散乱して起こる。太陽の地平線下の高度によって、常用薄明、航海薄明、天文薄明に分けられる。

■放射点(ほうしゃてん) 流星群に属する複数の流星の天球上での経路を、飛んだ方向と逆向きに経路の延長線が集まる点。以前は輻射点と呼ばれた。個々の流星は、この放射点から光り出すわけではなく、天空上の広い範囲に出現する。

■留(りゅう) 惑星の赤経の時間的変化が0になるときをいう。惑星の赤緯の変化は小さいので、惑星は留の頃に恒星に対してほとんど静止して見える。留は順行と逆行の境い目である。