膨張宇宙の発見

ハッブルの影に消えた天文学者たち
表紙
マーシャ・バトゥーシャク 著
長沢 工・永山淳子 訳

ISBN978-4-8052-0836-6

四六判/488頁

\2,800+税

『膨張宇宙の発見』正誤表
『膨張宇宙の発見』の企画・編集にあたって

概要

今日、一般的には、エドウィン・ハッブルが膨張宇宙を観測的に発見したと見なされている。銀河の赤方偏移がその距離に比例しているという観測事実を明らかにしたのは確かにハッブルである。これに、一般相対性理論を宇宙全体に適用した解としての膨張宇宙論が結合し、現代のいわゆるビッグバン宇宙論の基礎が形作られた。しかし、著者バトゥーシャクによれば、ハッブルは宇宙そのものが膨張し、銀河はそれに乗って後退していくという考え方には最後まで懐疑的であったという。銀河の後退速度に言及する際もハッブルは「みかけの速度」という言い方をし、膨張宇宙ではなく、理論家が何か別の解釈を示してくれることを望んでいたふしさえあるのだそうだ。

ハッブルの驚くべき結論に到達する研究データの多くは、ローウェル天文台の天文学者スライファーの観測によるものだが、しかし、この発見に至るスライファーの決定的役割は、今では天文学外の世界ではほとんど忘れ去られている。これが著者の言う「ハッブル伝説」の力で、歳月を経るにつれ他の人々の貢献を見えなくしてしまう。著者は本書の中で、ハッブルの成功の礎となった登場人物たちすべてに、余すところなくスポットライトを当てている。

そこに登場するのは、ジェームズ・キーラー、ヒーバー・カーティス、ヘンリエッタ・リーヴィット、ジョルジュ・ルメートルといった膨張宇宙の発見にかかわった天文学者で、本書ではその人となりが生き生きと描かれている。20世紀初め、巨大望遠鏡と天体物理学という新たな手段によって、ヨーロッパに追いつき、追い越していくアメリカ天文学の舞台に現れた登場人物たちは、みな個性的で魅力的と言える。第一次世界大戦を挟んで世界が激動の時代であったわずか30年あまりのうちに、人類の宇宙観もまったく革命的に変化したのである。

原著
Marcia Bartusiak: The Day We Found the Universe (Pantheon Books, 2009)

著者

マーシャ・バトゥーシャク
Marcia Bartusiak
天文学・物理学関係のジャーナリスト、サイエンス・ライターとして活躍する一方、マサチューセッツ工科大学では、サイエンス・ライティング・プログラムにおける客員教授として大学院生の指導にあたっている。1971年ワシントンDCアメリカン大学を卒業、テレビ局で記者・キャスターを務め、NASAラングレー研究所の担当になって科学への関心を強め、オールド・ドミニオン大学の物理学修士課程に入学、応用光学分野の研究を行なっている。その後、サイエンス・ライターとしてさまざまな出版物で天文学・物理学の記事を書き、現在は天文誌『アストロノミー』の編集アドバイザーであり、『ニューヨークタイムズ』、『ワシントンポスト』などで科学書の書評を担当している。1982年アメリカ物理学協会のサイエンス・ライティング賞を女性で初めて受賞し、2001年には二度目の受賞をしている。

目次

序章 1925年1月1日
初めの一歩
第1章 小さな科学の共和国
 ――ジェームズ・リック――
第2章 驚くべき数の星雲
 ――ジェームズ・キーラー――
第3章 真実以上に強く
 ――ウィリアム・ハーシェルとウィリアム・パーソンズ――
第4章 荒くれ者の西部での天文学の進歩
 ――ヒーバー・カーティス――
第5章 カボチャを頼みましたよ
 ――パーシヴァル・ローウェルとヴェスト・スライファー
第6章 それは注目に値する
 ――ヘンリエッタ・リービット――
探検
第7章 帝国の建設者
 ――ジョージ・ヘール――
第8章 太陽系は中心から外れ、人類もまた結果的にそうなった
 ――ハーロー・シャプレー――
第9章 確かに彼は、四次元世界の人のようだ!
 ――アルバート・アインシュタイン――
第10章 激論の応酬
 ――ハーロー・シャプレーとヒーバー・カーティス――
第11章 アドニス
 ――エドウィン・ハッブル――
第12章 大発見の一歩手前か、あるいは大きなパラドックスか
 ――ハーロー・シャプレーとエドウィン・ハッブル――
発見
第13章 空全体に無数の世界がちりばめられ
 ――エドウィン・ハッブル――
第14章 2.5メートル望遠鏡をうまく使っているね
 ――ミルトン・ヒューメーソン――
第15章 計算は正しいが、物理的な見方は論外です
 ――ジョルジュ・ルメートル――
第16章 ある一撃で始まった
 ――アルバート・アインシュタイン――
その後のこと