SDGsな野生動物のマネジメント狩猟と鳥獣法の大転換
概要野生動物をマネジメントする法律の柱は「鳥獣法」である。狩猟行為を制御することによって獲物の持続性を担保するという鳥獣法の主旨は、SDGsの理にかなっている。しかし、明治初頭に作られ、150年もの間、制度を継ぎはぎして運用されてきたこの法律は、現代社会の様々な問題に対応できていない。その理由を整理して、鳥獣法を大きく構造転換し、生物多様性保全のための保護地域や、被害を抑制する棲み分けについて提案する。まず第T部で、日本に棲む6種の大型野生動物(カモシカ、シカ、イノシシ、サル、クマ(2種))を取り上げ、その生態と、日本人が狩猟とともに歩んできた歴史をたどる。それを踏まえて第U部では、人口減少が進む日本ならではの、そしてSDGsの求める持続可能な社会に向けた、野生動物とうまく付き合っていくための具体的な方法を考えていく。 著者羽澄俊裕(はずみ・としひろ)1955年生まれ。東京農工大学を卒業後、1980〜1984年に環境庁「森林環境の変化と大型野生動物の生息動態に関する基礎的研究」プロジェクトにツキノワグマ班研究員として従事。1983年に野生動物保護管理事務所(WMO)を立ち上げ、1991年に代表取締役となる。2015年に引退。以後、立教大学ESD研究所・客員研究員、東京農工大学農学府・特任教授等を経て、現在は、(公財)神奈川県公園協会理事、(一社)リアル・コンサベーション理事、環境省ほか国や自治体の各種検討会委員を務める。博士(人間科学)早稲田大学。 著書に『けものが街にやってくる―人口減少社会と野生動物がもたらす災害リスク』(地人書館、2020年)、『自然保護の形―鳥獣行政をアートする』(文永堂出版、2017年)、分担執筆は『動物のいのちを考える』(高槻成紀編著、朔北社、2015年)、『改訂 生態学からみた野生生物の保護と法律―生物多様性保全のために』((財)日本自然保護協会編集、講談社、2010年)、『歴史のなかの動物たち』(中澤克昭編、吉川弘文館、2008年)ほか。 野生動物や自然環境を保全する社会システムの整備に取り組み、社会が行う自然保護の姿として、日本版ワイルドライフ・マネジメントを創り上げることをライフワークとしてきた。 目次まえがき 第T部 日本人と野生動物がたどってきた道 第1章 狩猟と不殺生の歴史 1.1 日本列島の誕生と野生動物 1.2 巨大動物がいた旧石器時代 1.3 ドングリが支えた縄文時代 1.4 動物の飼育が始まった弥生時代 1.5 王権による飼育が始まった古墳時代 1.6 初の狩猟法令が出た飛鳥時代 1.7 不殺生思想が広まった奈良時代 1.8 狩猟と薬食いの平安時代 1.9 非人と鉄砲の中世 1.10 穢れを身分制度に固定した近世 1.11 乱獲と開発の近代 1.12 生物多様性保全と大量の殺生を求める現代 第2章 カモシカが特別天然記念物であることの意味 2.1 カモシカがたどった道 2.2 カモシカの特徴 2.3 分布の変遷 2.4 マタギによるカモシカ猟 2.5 中国山地のカモシカ 2.6 資源保護から天然記念物保護へ 2.7 林業被害と三庁合意 2.8 未完の保護地域指定 2.9 マネジメントの始まり 2.10 文化財指定を外せない理由 2.11 法的根拠がない 2.12 カモシカの現在 第3章 シカと生態系と人間の関与 3.1 シカ問題の本質 3.2 マネジメントの突破口 3.3 シカの特徴 3.4 分布の変遷 3.5 森林の変容とシカの増加 3.6 シカが森を作り変える 3.7 法制度の強化 3.8 丹沢のシカ問題 3.9 神奈川県の先進性 3.10 尾瀬に登るシカ 3.11 分布拡大の最前線 第4章 人に近づくイノシシと感染症 4.1 もっとも身近な大型野生動物 4.2 日本のイノシシ 4.3 イノシシの特徴 4.4 分布の変遷 4.5 イノシシとの闘い 4.6 イノシシを減らす努力 4.7 イノシシと対峙する現場 4.8 街に出るイノシシ 4.9 豚熱の蔓延 4.10 感染症の侵入を防ぐ 第5章 雪山に登った熱帯生まれのサル 5.1 ヒトに似た野生動物 5.2 サルの特徴 5.3 分布の変遷 5.4 保護の努力 5.5 生息環境の変化とサル 5.6 加害行動の伝播 5.7 畑の防衛 5.8 サルのマネジメントの到達点 第6章 クマのレッドリスト個体群指定を解除する 6.1 かつて神であったクマ 6.2 レッドリストの目標 6.3 クマの特徴 6.4 ヒグマの分布の変遷 6.5 ヒグマのレッドリスト個体群 6.6 ツキノワグマの分布の変遷 6.7 大量出没と駆除 6.8 中国山地のレッドリスト個体群 6.9 閉鎖性の高い半島部のレッドリスト個体群 6.10 危機にある四国山地個体群 6.11 危機的個体群の再生 第U部 パラダイムシフト 第7章 時代に呼応する鳥獣法 7.1 資源管理の思想の転換 7.2 保全とマネジメントの理解の転換 7.3 鳥獣法への二つの問い 7.4 人口減少時代の鳥獣法 7.5 鳥獣法の原点 7.6 明治期に作られた鳥獣法の骨格 7.7 鳥獣保護法への転換 7.8 科学に基づくマネジメントへの転換 7.9 鳥獣被害防止特措法によるアシスト 7.10 鳥獣保護管理法への転換 第8章 鳥獣保護管理法の混沌 8.1 定義に見る違和感 8.2 保護計画と管理計画 8.3 希少種の扱いに関する混沌 8.4 鳥獣法の意思を確認する 8.5 パラダイムシフト 第9章 捕獲の場所の大転換 9.1 鳥獣法のイノベーション 9.2 社会インフラとしての狩猟 9.3 乱場制と棲み分け論 9.4 乱場制と地域指定 9.5 狩猟を行ってはいけない地域 9.6 現在の猟区制度 9.7 新しい猟区論 9.8 新生猟区の運営主体 9.9 生物多様性保全に寄与する新生猟区 9.10 モニタリング体制の確保 第10章 保護地域論 10.1 鳥獣保護区の再考 10.2 サンクチュアリとしての保護地域 10.3 生態系の多様性 10.4 シカ対策と保護地域 10.5 保護地域に関するIUCNの概念 10.6 日本の保護地域 10.7 国際条約に基づく保護地域 10.8 防災・減災のための保護地域 第11章 棲み分け論 11.1 問題の抑止 11.2 野生動物による被害の実態 11.3 人獣共通感染症というリスク 11.4 人口の動向 11.5 人口分布の偏り 11.6 空間構造の変化 11.7 棲み分けの空間イメージ 11.8 各ゾーンにセットする管理捕獲 11.9 土地利用に関する法制度 11.10 コンパクトシティへの移行 11.11 棲み分けの実行体制 あとがき 参考文献 掲載写真撮影者 索引 |