カッコウの托卵

進化論的だましのテクニック
表紙
ニック・デイヴィス 著
中村浩志・永山淳子 訳
ISBN978-4-8052-0899-1

四六判/344頁

\2,800+税


概要

カッコウは昔から托卵をする鳥として知られているが、その詳細については写真やハイテク機器を用いて個体の同定や追跡、巣内の観察が行われる最近まで不明だった。観察方法の進歩につれ、どのように托卵し、それに対し宿主がどのように托卵を回避するか、共進化の様相が明らかになってきた。カッコウの托卵行動と子育ての放棄・押しつけは、果たして“進化”で説明できるのだろうか。カッコウは托卵することで“親”という重荷を逃れ、普通の鳥より多くの卵を産む潜在的可能性を持つ。それは宿主がだまされやすいうちは一時的に得をするかもしれない。しかし宿主が反撃すると、カッコウは結局だましのテクニックに複雑な手順が必要となる。詐欺の常習犯が最後はつかまって償いをさせられるように宿主の防衛は托卵の進化的成功を制限する。しかし、それでもカッコウは托卵を成功させ、現在も托卵を進化させている。著者は世界的なカッコウ研究者で、自らの研究を含めて過去・現在の驚くべき観察事例を豊富に紹介している。叙述は平明であまり細部に立ち入りすぎることはなく、一般向けの良質な科学読み物になっている。

原著

Cuckoo: Cheating by Nature (Bloomsbury, London, 2015)

著者

ニック・デイヴィス Nick Davies
ケンブリッジ大学動物学教授、ペンブルック・カレッジ・フェロー。1976年〜1979年オックスフォード大学動物学実験授業助手、1977年〜1979年同大学ウォルフソン・カレッジのジュニア・リサーチ・フェロー。デイヴィスのカッコウ研究は、BBCラジオ、BBCフィルムなどで紹介されている。専門は動物の行動生態学。特に最近は、カッコウとその宿主との相互作用に焦点をあてて多方面から研究を行なっている。著書 Cuckoos, Cowbirds and Other Cheats (Elsevier Science, 2000) は、英国鳥類学協会(British Trust for Ornithology, BTO) と British Birds Magazine のベストブックに選ばれている。

訳者

中村浩志
1947年長野県坂城町生まれ。信州大学の生態研究室に入り鳥に興味を持つ。1969年信州大学教育学部卒業。京都大学大学院でカワラヒワの研究を行ない、1977年理学研究科博士過程修了。理学博士。1980年信州大学教育学部助手、1992年同学部教授。動物生態学が専門で、1982年より20年間ほど千曲川でカッコウの托卵とその生態調査を実施。その他ライチョウ、カケス、ブッポウソウなど、様々な鳥の研究で世界的にも高い評価を受けている。2002年カッコウの研究で、鳥学の発展と鳥類保護の功績を顕彰する「山階芳麿賞」を受賞。2006年〜2009年日本鳥学会会長。2015年より一般財団法人中村浩志国際鳥類研究所代表理事。著書に『軽井沢の自然』『千曲川の自然』『歩こう神秘の森 戸隠』(信濃毎日新聞社)、『甦れ、ブッポウソウ』『雷鳥が語りかけるもの』(山と渓谷社)、『二万年の奇跡を生きた鳥ライチョウ』(農山漁村文化協会)など多数。

永山淳子
1961年東京生まれ。図書館情報大学(現筑波大学図書館情報専門学群)卒業。オンライン検索サービス会社勤務の後、主として自然科学書の包括的な校正作業などに携わっている。訳書には『望遠鏡400年物語』、『膨張宇宙の発見』、『パラサイト』(いずれも共訳、地人書館)がある。

目次

前書き
第1章 巣の中のカッコウ
 ――文学作品や観察記録の中に描かれているカッコウの托卵――
第2章 カッコウはどのように卵を産むか
 ――長い間の論争はエドガー・チャンスによって決着がつけられた――
第3章 ウィッケン・フェン
 ――著者の調査フィールド、ケンブリッジ近郊のウィッケン・フェン――
第4章 春を告げる鳥
 ――カッコウはどうやって托卵相手やそのタイミングを選ぶのか――
第5章 カッコウのふりをする
 ――宿主であるヨシキリは人工の擬卵にだまされるか、それとも見破るか――
第6章 卵をめぐる「軍拡競争」
 ――擬卵を見破る能力の高い宿主に托卵したときほど、カッコウ卵は宿主の卵に似てくる――
第7章 署名と偽物
 ――宿主が卵に記す「署名」が精巧になるとカッコウの卵も巧妙になり、宿主は「署名」を変える――
第8章 さまざまな装いでのだまし
 ――カッコウはタカに姿を似せることで宿主からの反撃を減少させ、宿主を混乱させる――
第9章 奇妙で忌まわしい本能
 ――孵化したカッコウの雛は丸裸で目も見えないが背中に宿主の卵を乗せて追い出す――
第10章 餌ねだりのトリック
 ――カッコウの雛はどのように宿主の気を引くか。驚きの「だましのテクニック」――
第11章 宿主の選択
 ――カッコウの「好みの宿主」が世代を越えて伝えられるしくみ――
第12章 もつれ合った土手
 ――多種多様な生き物が複雑な相互関係を保って生きている――
第13章 減少するカッコウ
 ――地球温暖化による托卵の時期の狂いと餌の減少が原因か?――
第14章 変化する世界
 ――カッコウが減少すれば宿主の行動も変化する。近年の宿主の行動に変化が生じている――
謝辞
訳者あとがき
用語解説
訳注および参照文献
原注および参考文献
索引