パラサイト寄生虫の自然史と社会史
概要寄生虫は有史以前から人類とともにあった。それは単に寄生するものと宿主の関係という単純な関係だけではなく、寄生虫の生活環には第三の中間宿主が存在することも多く、それを含めた生態系には環境変化や進化の問題までが関わる。また、犯罪の証拠にもなり人間の精神活動にもさまざまな影響を与えている。本書は、主に人に寄生する寄生虫について、そのありとあらゆる側面――種類、歴史的背景、危険性、感染経路、宿主となる他の動物、環境との関連、各国の事情、寄生虫の持つ意外な性質、寄生虫の利用、撲滅の試みなど――を記述した著作。各章とも、そのテーマに関連するさまざまなエピソードが取り上げられ、そのいずれもが、興味深い物語として読み進められる内容で、話の展開は工夫されている。原著Rosemary Drisdelle: Parasites ― Tales of Humanity's Most Unwelcome Guests (University of California Press, 2010)著者ローズマリー・ドリスデルRosemary Drisdelle ローズマリー・ドリスデルは、医学分野、特に寄生虫学の研究をバックグラウンドに持つフリーランスのサイエンスライターである。また、一般向けの基礎的な科学解説、技術解説に焦点をあてた執筆活動を行なっている。科学解説分野の執筆では感染症、特に人間の社会と文化に影響を与えてきた寄生虫症に興味を持っている。 目次第1章 見えない敵――歴史に現われる寄生虫 聖書の中の寄生虫/ガーナのダム建設と住血吸虫/スタンリーのアフリカ探検と睡眠病/ ベトコンとマラリア 第2章 危険な市場――食と寄生虫 豚肉と旋毛虫/家畜とエキノコックス/グアテマラのラズベリとサイクロスポラ/ クレソンに付く肝蛭/酢漬けニシンとアニサキス/牛肉と無鉤条虫/調理場のハエ 第3章 飲料水への警告――水と寄生虫 汚染された水道水とトキソプラズマ症/浄水施設を通過する寄生虫/ 飲料水の安全性とクリプトスポリジウム/イエネコによる寄生虫の世界的拡散 第4章 不法入国者――人の移動と寄生虫 奴隷貿易と寄生虫/南北戦争と寄生虫/ミツバチとミツバチヘギイタダニ/ トナカイの輸送による寄生虫の拡散/キツネ狩りと寄生虫/リビアのラセンウジバエ 第5章 宿主を支配する寄生虫――SFのような寄生虫の振る舞い 人を水辺に向かわせるメジナ虫/アリを支配する槍形吸虫/タラバガニを乗っ取るフジツボ/ ネコを避けなくなるドブネズミ/ナブラチロワとトキソプラズマ感染 第6章 鏡の家の中――寄生虫のさまざまな側面 寄生虫に支配された暗殺者/存在しない寄生虫と寄生虫妄想症/虐待を隠蔽したカイセンダニ/ カンタベリー大司教とコロモジラミ/傷口を治療するウジ虫/ 第7章 犯罪をあばく寄生虫――意図しない証拠の保全 ツツガムシの幼虫に刺された犯人/マラリア原虫の返り血を浴びた強盗犯/ テロリストを失敗させたマラリア原虫/日本軍によるペスト菌散布/ 恐怖の道具となった寄生虫症/ブタ体虫による人体実験 第8章 新興寄生虫症――予期せぬ出現 人の衣服とコロモジラミ/ダーウィンの観察したサシガメ/吸血昆虫の隠れ家としての人家/ コンタクトレンズとアカントアメーバ/水遊びとフォーラーネグレリア/ シカダニとネズミバベシア/都会のアライグマ/移民が持ち込む有鉤条虫 第9章 寄生虫の絶滅――寄生虫と人の相互作用 消滅の運命にあるメジナ虫/回旋糸状虫とボルバキア/有鉤条虫と公衆衛生/ マラリア撲滅計画の失敗/サシガメの生活環境と開発 訳者神山恒夫1946年北海道札幌市生まれ。北海道大学獣医学部を卒業し、国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)に勤務。2007年定年退職。専門は人獣共通感染症。獣医学博士。主な著書には『動物由来感染症』(共編著、真興交易(株)医書出版部、2003年)、『これだけは知っておきたい人獣共通感染症』(地人書館、2004年)、『共通感染症ハンドブック』(共編著、日本獣医師会、2004年)、『子どもにうつる動物の病気』(共編著、真興交易(株)医書出版部、2005年)、『狂犬病再侵入』(地人書館、2008年)などがある。 永山淳子 1961年生まれ。図書館情報大学(現筑波大学図書館情報専門学群)卒業。オンライン検索サービス会社勤務の後、主として自然科学書の包括的な校正作業などに携わっている。訳書(共訳)には『望遠鏡400年物語』(地人書館、2009年)、『膨張宇宙の発見』(地人書館、2011年)がある。 |