ダム湖の中で起こること

ダム問題の議論のために
表紙
村上哲生 著

ISBN978-4-8052-0860-1

四六判/208頁

\1,800+税


概要

 2001年の田中康夫長野県知事(当時)による「脱ダム宣言」は、国内各地のダム建設予定地に大きな影響を及ぼした。今や、ダム事業からの撤退は、世界的な潮流ともなっている。しかし、ダムの問題は、環境、地域、社会、経済など、利害関係が複雑に絡み合い、大変に難しい。

 本書は、川や湖の研究者として40年近くダムと河口堰問題に関わってきた著者が、現場で調査・観測したデータを中心に、ダムの環境影響について、社会や経済の視点も入れながら、丁寧に解説する。

 ダム、ダム湖とは何か? ダム湖の中やその下流ではどんな現象が起こり、どのような環境影響があるのか?今後もダムを造り続けるのか、それとも撤退するのか? ダムとこれからの社会をどうするか、本気で議論するために、必読の1冊。

著者紹介

村上哲生(むらかみ・てつお)
1950年、熊本県生まれ。1973年、熊本大学理学部生物学科卒業、博士(理学)。名古屋市水道局、同市公害研究所(環境科学研究所)を経て、2000年より名古屋女子大学助教授、2003年教授。(財)日本自然保護協会参与。専門は陸水学(川と湖に関する科学)、環境科学。

目次

目次

 はじめに―新しいようで古いダムの環境問題
   自然の見方
   科学的に考えること
   言葉でごまかさない

第1章 ダム、ダム湖とは何か?
   ダムとダム湖
      多目的ダム
   ダム湖と天然湖
   ダム湖の特徴
   ダム湖化する天然湖
   ダム湖の分類
   ダム湖の仲間の人工湖、ダム湖と誤解される天然湖
   本書で扱うダム

第2章 ダム問題とは何か?
   ダムができるまで
   ダムの建設
   ダムができてから
   治水を巡る争点―ダムと基本高水量
   緑のダムの効果と限界
   利水を巡る争点―水余りか水不足か

第3章 ダム湖の中で起こること―その1 水温と水質の特徴
      成層
   ダム湖に入った水はどう流れる?
   ダム湖の底
   栄養分や土砂の移動の妨げ
   底から水が流れ出すダム湖

第4章 ダム湖の中で起こること―その2 プランクトンの発生とその影響
   プランクトン(浮遊生物)とペリフィトン(付着生物)
   ダム湖の中のプランクトンの働き
   富栄養化の問題
   なぜ、ダム湖で大量にプランクトンが発生するのか?
   川・ダム湖・湖
   ダム湖の中の川と湖

第5章 ダム湖の下流で起こること―その1 水位の変化と冷濁水の放流
   水位の変化
   冷水の放流
   温かい水の問題
   濁りの長期化

第6章 ダム湖の下流で起こること―その2 生き物への影響を巡って
   アユはどうなる?
   藻類への影響
   アユ漁への影響
   ザザムシ
   ダムの下流の生物への影響は一様ではない

第7章 ダムの環境影響の議論の歴史
   ヘッチ・ヘッチー論争
   尾瀬ヶ原での水力発電計画
   水道技術者のダム研究
   長良川河口堰反対運動からダム撤去へ
   なぜ、ダム・堰建設は、他の河川開発以上に警戒されるのか?
   ダムは川の川らしさを奪う
   淀んだ川を嫌う私たちの心

第8章 ダムによる環境変化はどこまで予測できるか? 軽減できるか?
   環境変化の予測
   予測の手法
   予測の精度
   予測の考え方
   環境影響は軽減できるか?―選択取水と清水バイパス
   穴開きダム
   ダムの環境影響の現状、予測、対策

第9章 ダムと災害
   人吉を襲った洪水―ダムの限界と効果の過信
   ダム上流の堆砂と下流の侵食
   ダムと地震
   その他の地球規模の障害

第10章 多目的ダムの功罪
   水利権
   水利権を生み出す
   多目的ダム―安く水資源を得る方法
   水資源開発の破綻
   住民監査請求とダム反対運動
   評価と反省
   治水・利水の安全度と環境の未然防止

第11章 ダム問題をさらに詳しく知るために
   1951年〜1980年
   1981年〜2000年
   2001年〜

第12章 これからのダム問題の議論のために
   専門家が情報を発信する勇気と義務
   研究者の中立性
   本を書くことの必要性
   ダムと民主主義

 おわりに
 引用資料・文献
 索引
 著者紹介