野生との共存行動する動物園と大学
概要野生生物との共存がますます困難となり、動物に関わる動物園と大学がいっしょになって行動して行くことが、今ほど必要になった時代はない。本書は、400名を超える参加者で好評だった動物園と大学の協働連続講座「野生との共存」をもとに、動物園学、野生動物学の入門書ともなるよう各講演者が書き下ろした。10名の執筆者らが所属する動物園、大学で取り組んできた野生動物に関わる保全、教育普及、研究の活動内容がまとめられており、ともに行動して行くことを考える本である。現代において人間が野生生物と共存するには、野生と積極的に関わっていかなければならず、従来のような研究するだけの大学、展示するだけの動物園であってはならない。動物園と大学が地域の人々を巻き込んで野生を守っていくのである。 編著者紹介 羽山伸一(はやま・しんいち):日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科野生動物学教室教授。 帯広畜産大学大学院修士課程修了。獣医師、獣医学博士。ゼニガタアザラシ研究グループの創設に参加。以来、日本産大型野生動物の研究・保護活動に従事。(社)日本獣医師会・野生動物対策委員会・委員長、日本野生動物医学会・野生動物保護委員会・委員長、環境省・野生鳥獣保護管理検討会・委員など。 土居利光(どい・としみつ):(公財)東京動物園協会恩賜上野動物園園長 千葉大学園芸学部造園学科卒業、東京都環境局生態系保全担当課長、同自然公園課長、多摩動物公園園長等を経て現職。 成島悦雄(なるしま・えつお):(公財)東京動物園協会東京都井の頭自然文化園園長。 東京農工大学農学部獣医学科卒業、上野動物園飼育係、動物病院係長、多摩動物公園動物病院係長、飼育展示課長等を経て現職。北里大学獣医学部、日本大学生物資源科学部、東京大学農学部の各非常勤講師を歴任。 目次はじめに 第1部 いのちを守る 第1章 野生動物と共存するために 1.野生の危機と人間の関わり 2.動物園と大学が協働する意味 3.動物園と大学による保全活動 4.野生復帰への挑戦 第2章 生物多様性と動物園・水族館の役割 1.今日の課題 2.保全という言葉の意味 3.保全が必要とされる理由 4.自然保護と生物多様性 5.生物多様性とは何か 6.生息域内保全と生息域外保全 7.日本の動物園の法的位置付け 8.博物館法が期待する動物園の役割 9.動物園が対象とする動物 10.生物多様性保全における動物園・水族館の役割 第3章 生息地と協働した保全活動 〜イモリやトキを例として 1.都立動物園と保全活動 2.域内保全と域外保全 3.人工繁殖技術の応用 4.冷凍動物園 5.飼育個体群の役割−絶滅の渦巻− 6.飼育個体群を作る意味 7.動物園と域内保全、域外保全 8.都立動物園の取り組み 8.1オガサワラシジミ 8.2東京メダカ 8.3アカハライモリ 8.4トキ 8.5ツシマヤマネコ 9.生息地と協働した保全活動 第2部 いのちを伝える 第4章 伝えたいいのち 〜レクリエーション同好会創部34年の歩みと未来へ 1.レクリエーション同好会とは 2.レクリエーション同好会の歴史 3.現在の活動内容 ・レクリエーション同好会の一日 4.レクリエーション同好会についての考察 4.1レクの魅力 4.2いのちを伝える 5.大学と動物園が協力したら何ができるか 第5章 動物観察の楽しみ方 〜動物解説員からのおすすめ 1.動物を見る 2.「かわいい」の先にあるものは… 3.大人ならではの奥深い観察 3.1動物と向き合う感覚 3.2自分と相手を置き換えるアナロジー 3.3行動の意味を想像する 3.4動物園と野生環境を置き換える 3.5自分と相手の相対化 4.野生動物と出会う 5.ヒトと野生生物の共存 〈コラム〉嫌われもの 〈コラム〉動物園にいる動物にも、野生の性質が残っているのか? 第6章 子どもと身近な自然をつなぐ 〜井の頭自然文化園の取り組み 1.身近ないきもの探検 2.動物園の教育活動 3.文化園らしい教育活動 4.子どもたちに今、大事なこと 5.暮らしの中の遊びではなくなった自然体験 6.子どもと自然をつなぐ取り組み 6.1自然体験へのきっかけ作り ・身近な動物の展示 ・視点の提供 ・体験型展示 ・切り口の工夫 6.2動物園内での疑似自然体験 6.3フィールドへ連れ出す ・都内に残る里山での観察会 ・ヤマネコミニ講座と対馬体験ツアー ・親子で川遊びを楽しむ ・都会の公園の池を活用する 7.動物園の中にある「近所の自然」 8.最後に 第3部 いのちを科学する 第7章 身近ないのちを科学する 1.身近ないのちを科学するとは 2.多摩動物公園の歴史と特徴 2.1多摩動物公園の歴史 2.2多摩動物公園の特徴 ・多摩丘陵の雑木林が原風景 ・日本の野生動物の飼育と展示 ・昆虫園での飼育と展示 3.多摩動物公園ができること 3.1里山再生と環境学習 3.2昆虫を使った活動 4.多摩動物公園のこれから 4.1身近な動物の復活 4.2当たり前の種を当たり前に見せる 4.3感性をみがこう 第8章 イモリを調べる イモリを守る 1.イモリとヤモリ 2.減っているイモリ 3.保全の取り組み 4.イモリを増やす 5.イモリを調べる 6.わかってきたこと 7.わからないこと 8.域外保全 9.地域の小学校との連携 10.保全の意義 第9章 希少動物の人工繁殖技術 1.絶滅の危機にある動物を守るために 2.ツシマヤマネコにおける生息域外保全 3.野生動物の繁殖成功には人工繁殖技術が必要 4.人工繁殖技術とはどういうものか? 5.精液の採取方法 6.精子の保存方法:凍結精液 7.精液性状は動物種などにより異なる 8.人工授精とはどういうものか? 9.精液の輸送 10.事故で亡くなった場合の精子の有効利用 11.卵子に関する人工繁殖技術 12.胚移植技術とはどういうものか? 13.卵子(胚)の凍結保存 14.クローン技術 15.冷凍動物園という構想 第10章 糞からわかること 〜希少動物の繁殖のために 1.野生生物保全センターについて 2.バイオテクノロジーを応用した飼育下繁殖の取り組み 2.1DNA解析 2.2配偶子の冷凍保存 2.3性ホルモン測定 3.糞を用いたホルモン測定の活用例 3.1ゴールデンターキンの性周期 3.2グレビーシマウマの妊娠判定 4.飼育下ツシマヤマネコのホルモン測定と行動解析 5.まとめ 索引 |