樹木葬和尚の自然再生

久保川イーハトーブ世界への誘い
表紙
千坂げんぽう 著

ISBN978-4-8052-0823-6

四六判/196頁

\1,800+税



概要

首都圏で問題となっている里山開発において、特に墓地造成のために貴重な自然が失われる例が目立つ。一方で地方では、里山は放置され荒廃が進む。この事態に一人の和尚が立ち上がった。
荒れた里山に墓地としての許可を取り、手を入れ、整備する。墓標として植えるのは、その地域・環境にふさわしい花木だ。この「樹木葬」は、単に墓石代わりに木を植え、その周りに納骨するだけの記念樹型集合墓ではなく、地域の自然を後世に残していくためのものなのだ。
今、注目の「樹木葬」発案者であり、民間発意としては初の自然再生事業を立ち上げ、地域づくりに取り組む著者が、里山の生物多様性保全・再生という樹木葬の真の狙いと、その活動を述べる。

○関連サイト
*知勝院樹木葬ホームページ
  http://www.jumokuso.or.jp/
*久保川イーハトーブ自然再生研究所
  http://www.jumokuso.or.jp/kubokawa/

○「久保川イーハトーブ」とは
「イーハトーブ」は、宮沢賢治が名付けた理想郷。里山があって、川や水田がある、生物多様性に満ちた世界を賢治は理想とした。賢治の故郷である当時の岩手県花巻をイメージしたとされる。著者のすむ久保川流域は、美しい景観や生物多様性、そしてそれらを育んできた暮らしが残されており、賢治が考えた世界に近いのではないかと考えて、この地域を「久保川イーハトーブ」と名づけ、自然再生、地域おこしの活動を展開している。

著者

千坂げん峰(ちさか・げんぽう)
1945年、宮城県生まれ。東北大学文学部卒業、東北大学大学院文学研究科博士課程中退後、聖和学園短期大学(仙台市)教授を経て、2008年、同短期大学特任教授を退任。1984年より岩手県一関市祥雲寺(臨済宗妙心寺派)住職。2006年、樹木葬墓地(1999年開創)を管理する知勝院が宗教法人として認証され、知勝院住職を兼務して現在に至る。祥雲寺は仙台藩の支藩、一関藩3万石・田村家の菩提寺。田村家は江戸屋敷で浅野内匠頭が切腹するなど歴史と関わりがある。このため、住職となってからは、歴史を生かしたまちづくりに奔走。平泉の「柳之御所遺跡」保存運動以来、北上川を中心とした流域のあり方に注目。この活動から、日本初の「樹木葬墓地」が生まれた。著書に『五山文学の世界―虎関師錬と中巌円月を中心に』(白帝社)、『樹木葬を知る本―花の下で眠りたい』(共編、三省堂)、『樹木葬の世界―花に生まれ変わる仏たち』(編著、本の森)などがある。

目次

 はじめに―満十周年を経た知勝院樹木葬墓地と久保川イーハトーブ世界

 久保川イーハトーブ世界の地図

 カラー口絵(16ページ)

第一章 本当の「樹木葬」とは何か
   樹木葬と樹木葬墓地の誕生
   里山の生態系や景観を守るための決まりごと
   「花に生まれ変わる仏たち
   樹木葬墓地での管理作業
   亜流の樹木葬墓地との違い

第二章 久保川イーハトーブ世界の姿と知勝院
   一関市と久保川イーハトーブ世界
   久保川イーハトーブ世界の里山景観の特徴
   久保川イーハトーブ世界と知勝院の施設
     久保川イーハトーブ世界の自然を楽しむ自然体験研修林
     人工林を整備して山野草の復活を見守るクラムボン広場
     久保川イーハトーブ世界のすべてがわかる樹木葬墓地

第三章 寺の和尚が自然再生活動を行うわけ
   首都圏では破壊が、地方では荒廃が進む里山
   樹木葬墓地を考えるきっかけ
   一関・平泉の大湿地帯と生物多様性に満ちた浄土
   世界遺産登録延期と「己心弥陀」「此土浄土」
   「縁」と「中道」、「気(キ)」と「気(ケ)」
   自らの地域を考えるときに必要な仏の智慧「四智」
   虚空蔵菩薩は里山保全活動のキーワード
   生物多様性と曼荼羅とイーハトーブ
   仏教と生物多様性とは相性が良い

第四章 気づきと人の縁で深まる自然再生の取り組み
   建造物や遺跡以外にも文化的価値がある
   手を入れれば荒れた里山も美しくなる
   一関周辺は南北の植生がせめぎ合う場所
   樹木葬墓地誕生までの紆余曲折
   ウシガエルのいる溜め池はドジョウが少ない
   久保川イーハトーブ世界の生物多様性を科学的に調査
   久保川イーハトーブ世界での作業と支えてくれる人たち
   地域の縁を気づかせてくれるのが人の縁

第五章 久保川イーハトーブの生物多様性と迫り来る危機
   希少な生物たちの命に満ちた多様な水環境
   里山の四季を彩る数々の生き物たち
     妖精たちの春
     白い夏
     青と紫の秋
     静寂の冬
     雑木林と溜め池の関係
   久保川イーハトーブ世界が直面している危機
   生物多様性を守るための知勝院の役割

特別寄稿 久保川イーハトーブ世界の生物多様性の保全・再生 
                   東京大学大学院教授 鷲谷いづみ
   日本型「緑の埋葬」としての樹木葬
   里山・里・水辺の生物多様性の総合的な再生
   保全生態学研究室の研究と自然再生協議会の発足

第六章 久保川イーハトーブ自然再生事業と地域づくりのこれから
   生物多様性と地域の縁
   初めての民間発意の自然再生事業
     事業の目的
     事業の項目と概要
     期待される効果
   「世界に誇れる日本の里山」とこれからの観光地
   自らの地域の魅力を意識した地域活性化へ
   「修証一如」の精神で、これからも楽しみながら

 あとがき―わたしの夢

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