カワセミの子育て自然教育園での繁殖生態と保護飼育
概要本書は、自然教育園(東京都港区)で21年間にわたって継続されている著者のカワセミ調査の集大成である。特に抱卵期と育雛期は詳細なデータをもとにカワセミの繁殖生態を明らかにしている。また、親鳥の失踪によって観察中の巣穴に取り残された雛の救出と保護飼育の過程はカワセミ飼育の貴重な体験記録となっている。本書で著者が調査対象としたのはカワセミという一鳥類の繁殖生態であるが、具体的な観察と結果をまとめるまでの過程では、自然観察一般における手段・方法の基本が示され、詳細な記録には、カワセミに限らない生態観察の基本的なテクニック・考え方が述べられている。また、本書からは、データのわずかな変化が、じつは予測し得ないカワセミの行動やアクシデントを意味しているという自然観察の醍醐味を味わうことも可能である。〔著者〕 矢野亮 1943年満州生まれ東京育ち。東京教育大学農学部林学科卒業。1969年より国立科学博物館附属自然教育園に勤務、2008年定年退職、現在名誉研究員。関東学院女子短大・大学非常勤講師、日本鳥類保護連盟評議員。著書には『四季の森林』『帰ってきたカワセミ』(以上、地人書館)、『自然観察ガイダンス』『街の自然観察』(以上、筑摩書房)、『植物のかんさつ』(講談社)などがある。 目次第1章 都心のオアシスに帰ってきたカワセミ 自然教育園の歴史と自然の変遷、カワセミの退行・復活などの動態 第2章 カワセミのプロフィール 名の由来、生息域、オス・メスの識別方法など 第3章 調査方法の変遷と教育普及の活動 止まり木や巣穴壁面の改良、観察施設の充実、調査機器の改善など 第4章 カワセミの繁殖生態 カワセミの生態(抱卵期と育雛期の調査)についての21年間の集大成 特に抱卵期と育離期に重点 第5章 保護飼育への挑戦 ―雛の里親体験― 育雛期途中で親鳥が失踪、7羽の雛の救出と保護飼育、そして放鳥 第6章 八王子からのSOS 水が苦手なカワセミを長期の保護飼育でやっと放鳥 第7章 不気味な黒い影 ―外来魚の密放流― ブラックバスなどの密放流によりカワセミの餌が壊滅状態、浚渫工事で外来魚を根絶 第8章 未知の世界の探究 雛を救出時の穴を利用して2001年から産室内の観察を開始 第9章 産室内の雛の行動 産室内の雛の撮影に成功 第10章 21年間のまとめと今後の課題 自然教育園における21年間のカワセミ繁殖記録のまとめ |