微生物増殖学の現在・未来
Propagation of Micro-Organisms
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編・監修
福井作蔵・秦野琢之
著者
赤田純子 赤田倫治 東 慶直 阿部恵子
伊藤喜久治 乾 将行 今中忠行 浦野直人
加藤純一 上村一雄 倉掛昌裕 古賀洋介
小林泰男 滝口 昇 土屋英子 中島田豊
西尾尚道 秦野琢之 服部 勉 平石 明
福井作蔵 藤嶽暢英 別府輝彦 松崎浩明
溝口晴彦 満谷 淳 宮川都吉 村上周一郎
森川正章 森崎久雄 森永 力 柳由貴子
吉田健一
ISBN978-4-8052-0805-2
B5判/480頁/
\5,000+税
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概要
微生物を科学の対象とするとき、人為環境で増殖する培養微生物を対象とする方法と、自然環境で増殖する自然微生物を対象とする方法がある。これまでの研究者は、前者または後者の一方のみを選択するのが主流であった。編者はこれら二つの研究方法を統合すれば「培養できない微生物たち」と戦うことができるかもしれないと判断し“微生物増殖学”の立ち上げを決断した。その具体化は、(1) 微生物増殖学の定義とその重要性を示し、(2) 若い研究者を対象とし、(3) 様々な視点に立ち、(4) 過去・現在を眺め、(5) 未来を創る、という五つの項目を満足させる教科書的な基礎専門書を刊行することである。単に過去の成果を羅列的に配置したものの多い在来の「微生物培養学」とは基礎理念において全く異なるものを目指した。
レーウェンフック以来の微生物学は、微生物培養学を確立させ、さらに分子生物学と一体化して、いわゆる「バイオ産業」の輝かしい世界を創造した。この成果があまりに見事なために、生物学研究の方向を固定化してしまう弊害を生んだ。現在の微生物培養学も分子生物学も、その基本理念は分析的で、その技術は簡素化・能率化を目指し、単純化に集約される。その結果、分析結果の複合化と組織化、時空スタンスの柔軟化というもう一つの基礎理念の構築を疎外し、生物学を自然へ復帰させる技術開発を先送りしてしまっている。本書は「微生物増殖学」をすべての微生物の増殖に係わる学問・技術と定義し(その中には微生物培養学も含まれ)、微生物増殖学の特徴を、微生物体、環境、時間・空間のいずれにも、人為的制限を設けないこと、または自由選択できるとすることにあるとし、これによって微生物学の新しい統合的方法論の誘導と創造の途を模索している。
目次
第一編 微生物増殖学T ――単一微生物系の増殖学――
第1章 増殖基礎環境
1-1 はじめに
1-2 物理環境と増殖
1-2-1 温度
1-2-2 湿度(相対湿度)
1-2-3 浸透圧
1-2-4 光線と放射線
1-2-5 音波
1-2-6 圧力(大気圧)
1-2-7 地理構造
1-3 化学環境と増殖
1-3-1 酸素
1-3-2 水素イオン濃度(pH)
1-3-3 培養基(培地)の組成
1-3-4 独立栄養細菌と従属栄養細菌
1-3-5 穏和な増殖抑制(添加物による制御)
1-3-6 物理化学的極限環境
1-4 生物環境と増殖
1-4-1 干渉(共生・拮抗)と無干渉
1-4-2 微生物・微生物間干渉
1-4-3 植物・微生物間干渉
1-4-4 動物・微生物間干渉
1-5 増殖環境(培養環境)の人為構築
1-5-1 培養容器
1-5-2 滅菌装置とその近傍機器・薬剤
1-5-3 温度調節機器
1-5-4 滅菌,殺菌,除菌,静菌および隔離
1-5-5 培養系(増殖環境)の物性
1-5-6 微生物の固定化
1-6 増殖基礎環境の目指すところ
1-6-1 見過ごしてきた概念
1-6-2 増殖能と代謝能
1-6-3 微生物生態の人為調節
第2章 細胞増殖
2-1 細胞増殖の速度論(数式表現)
2-2 増殖曲線
2-2-1 基本的な増殖曲線
2-2-2 増殖曲線の特異性
2-3 細胞量
2-3-1 細胞数の計測
2-3-2 細胞容積
2-3-3 選択圧と選択増殖
2-3-4 増殖のエネルギー収支論
2-3-5 界面における増殖
2-3-6 コロニー形成能を持たない微生物の計数
2-4 細胞増殖の経過と特徴
2-4-1 細菌の増殖過程における形態変化
2-4-2 酵母菌の細胞分裂(増殖過程)とライフ・サイクル(生活環)
2-4-3 糸状菌の増殖
2-5 細胞周期(細胞分裂周期)
2-5-1 出芽細胞(Saccharomyces cerevisiae)の細胞周期
2-5-2 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)の細胞周期
2-5-3 原生担子菌酵母(Rhodosporidium toruloides)の細胞周期
2-5-4 大腸菌(Escherichia coli)の細胞周期
2-5-5 細胞周期における形態イベントと機能イベントとの連携
2-6 同調培養
2-6-1 同調培養の必要性
2-6-2 同調化細胞の必要な数
2-6-3 増殖を同調化する方法
2-6-4 同調化を検証する方法
2-6-5 同調培養はなかなか難しい
2-7 環境への応答
2-7-1 コロニーの形状
2-7-2 走化性
2-7-3 形態の2形性と多形性
2-8 細胞の寿命
2-9 不利環境への対応
2-9-1 休眠状態
2-9-2 低栄養微生物
2-9-3 死:自己消化(溶菌)
2-9-4 細胞分化(細菌の胞子形成)
2-9-5 細胞のサイズと形態の変化
2-10 これからの道筋
第3章 培養プロセス工学の基礎
3-1 培養装置
3-1-1 培養装置に必要な要件
3-1-2 培養装置の概略
3-1-3 培養装置の評価(優れた点,欠点,適用実例)
3-2 基本的な培養方法
3-2-1 回分培養
3-2-2 連続培養
3-2-3 流加培養
3-2-4 培養方法の評価,および培養装置の適性
3-3 培養環境の自動制御法
3-3-1 pHの制御
3-3-2 温度の制御
3-3-3 酸素の制御
3-3-4 培地の制御
3-3-5 各制御法の評価と培養装置,培養方法および制御方法の適性
3-4 プロセス工学の未来(培養プロセス工学から生態培養プロセス工学へ)
第4章 好気培養および嫌気培養
4-1 好気培養
4-1-1 菌体による酸素消費速度と酸素移動速度
4-1-2 酸素供給の効率化
4-1-3 好気性独立栄養微生物(細菌)の培養
4-1-4 ペレットおよびフロックの培養
4-2 嫌気培養
4-2-1 嫌気性微生物のエネルギー獲得機構
4-2-2 低度嫌気度培養
4-2-3 高度嫌気度培養
4-2-4 嫌気性微生物のリアクター培養(ろ過培養)
第5章 ストレスと培養
5-1 微生物の多様性と極限環境微生物
5-2 生物の進化系統樹
5-3 ストレスとは
5-4 ストレス応答の例
5-4-1 温度ストレス
5-4-2 高圧ストレス
5-4-3 紫外線および放射線ストレス
5-4-4 湿度・乾燥ストレス
5-4-5 好気・嫌気ストレス
5-4-6 酸・塩基ストレス
5-4-7 食塩・浸透圧ストレス
5-4-8 栄養ストレス
5-4-9 飢餓ストレス
5-5 超好熱菌とその特徴
5-6 超好熱菌のエネルギー獲得様式
5-7 超好熱菌細胞膜の特徴
5-8 超好熱菌核酸の特徴
5-9 超好熱菌由来酵素の耐熱化機構
5-9-1 分子内相互作用によるタンパク質の耐熱化
5-9-2 分子間相互作用によるタンパク質の耐熱化
5-10 おわりに
第6章 育種とバイオハザード
6-1 細菌の育種
6-1-1 基本育種法
6-1-2 基本育種法を利用した育種例
6-1-3 近年の新しい育種手法
6-2 酵母の育種
6-2-1 酵母の分子育種
6-2-2 実用酵母の育種
6-2-3 酵母を用いたスクリーニング
6-3 微生物育種の展望
6-4 バイオハザード
6-4-1 バイオハザードの概念
6-4-2 バイオハザードの起こる理由
6-4-3 バイオハザードの具体例
6-4-4 アシロマ会議からカルタヘナ議定書へ
6-4-5 カルタヘナ議定書から日本の法律・省令へ
6-4-6 微生物育種の未来とバイオハザード(予防と対策)
第7章 分析培養
7-1 様々な分析培養
7-1-1 草分けの分析培養
7-1-2 細胞機能(分泌機能)の分析培養
7-1-3 環境生物の分析培養
7-1-4 細胞外および細胞内ストレッサー(機能変化)の分析培養
7-2 糸状菌(かび)による気候の分析培養(温・湿度の分析培養)
7-2-1 糸状菌(かび)生育の温・湿度依存性
7-2-2 カビセンサー,標準曲線,応答単位,およびカビ指数
7-2-3 カビセンサーによる環境評価の妥当性
7-2-4 室内環境の評価例とカビ抑止法
7-2-5 分析培養の周辺技術・知見
7-3 機能調節(内部環境の利用)を戦略とする分析培養
7-3-1 代謝制御の機能分析(分析培養)を利用するアミノ酸の発酵生産
7-3-2 酵母菌における増殖制御の機能分析(分析培養)を利用する医薬探索
7-3-3 機能分析(細胞内シグナル)を利用する分析培養の将来性
第8章 計数培養
8-1 計数培養とは
8-2 一般の計数培養
8-2-1 直接計数の方法
8-2-2 計数培養の方法
8-2-3 計数培養における課題
8-3 病原性菌(消化器系)の計数培養
8-3-1 病原性大腸菌とは
8-3-2 大腸菌群の検査法――平板法と発酵管法
8-3-3 大腸菌の判別試験
8-3-4 病原性大腸菌の検査法
8-4 殺藻微生物の計数培養
8-4-1 殺藻微生物とは?
8-4-2 シアノバクテリア殺藻微生物の計数培養
8-4-3 重層寒天平板法における過小評価の可能性
8-4-4 赤潮原因微細藻類の殺藻微生物の計数培養
8-4-5 最確数法における過小評価の可能性
8-4-6 まとめ――殺藻微生物の計数培養から得られたもの
8-5 おわりに
コーヒーブレイク
1 おもしろい教科書
2 用語「ストレス」から生まれるストレス
3 微生物界の構成ドメイン
第二編 微生物増殖学U ――複合微生物系の増殖学――
第9章 微生物の共生
9-1 微生物間共生の種類
9-2 微生物間共生系の分離
9-2-1 集殖培養
9-2-2 共培養
9-2-3 透析培養
9-2-4 Conditioned medium
9-3 微生物間共生系を支える物質的相互作用
9-3-1 種間電子伝達による微生物間共生
9-3-2 微生物細胞の集合体における協調的代謝
9-3-3 捕食あるいは菌体成分の利用を介する微生物間共生
9-3-4 微量栄養素の相補による微生物間共生
9-3-5 環境因子に依存するSymbiobacterium の片利共生系
9-3-6 種間化学信号に基づく微生物間共生
9-4 微生物間共生または混合培養の産業的利用
9-5 おわりに
第10章 腐生・寄生・共生・感染
10-1 きのこ菌の腐生,寄生,共生
10-1-1 きのこ菌とは
10-1-2 きのこ菌の不思議
10-1-3 きのこ菌の生活様式
10-1-4 自然環境ときのこ菌(糞生菌の生態)
10-1-5 きのこ菌の栽培
10-1-6 きのこ菌の利用
10-1-7 仙女の輪:結び
10-2 根粒菌の宿主植物への感染と増殖
10-2-1 はじめに
10-2-2 根粒菌概説
10-2-3 無限型根粒を形成する根粒菌の感染・共生プロセスの概略
10-2-4 感染糸内部での根粒菌の増殖
10-2-5 今後の研究課題
10-3 細胞内寄生性細菌とクラミジアの培養
10-3-1 はじめに
10-3-2 最近の細菌のゲノム研究動向
10-3-3 細胞内寄生性細菌
10-3-4 クラミジアについて
10-3-5 クラミジアの培養,動脈硬化部位からの分離
10-3-6 他の細胞内寄生(共生)菌の培養
10-3-7 ゲノムからのリバース培養学
10-3-8 おわりに
第11章 動物器官における微生物の増殖
11-1 反芻動物消化器官における微生物の増殖
11-1-1 はじめに
11-1-2 解析(特に定量)手法の進展
11-1-3 反芻家畜のルーメン微生物
11-1-4 野生動物から学ぶこと――食餌適応
11-1-5 難培養性消化管微生物に関する研究
11-1-6 複合系をどう扱うか――基礎と応用
11-2 腸管における細菌増殖
11-2-1 腸内フローラ(細菌叢)とは
11-2-2 腸内フローラのコントロールメカニズム
11-2-3 腸内フローラのダイナミズム
11-2-4 おわりに
11-3 医学系の計数培養
11-3-1 特定細菌の感染症検査――ピロリ菌感染症を例として
11-3-2 生体内微生物フローラ研究の新展開
11-3-3 今後の医学系計数培養の課題
第12章 生態培養と自生増殖
12-1 清酒醸造の酒母育成経過における微生物の動態――生態培養と食品製造
12-1-1 清酒醸造行程
12-1-2 生もと製造
12-1-3 生もとの特徴
12-1-4 生態培養における酵母の遺伝的適応
12-1-5 おわりに
12-2 水田と微生物
12-2-1 はじめに
12-2-2 当たり前の風景「水田」のなかの意外
12-2-3 水田を捉える視点
12-2-4 自生増殖を活用した循環システム――水田
12-2-5 水田を理解する新たな切り口,課題
12-2-6 おわりに 336
12-3 環境浄化における複合微生物群集の増殖と動態
12-3-1 はじめに
12-3-2 廃水処理系
12-3-3 有機廃棄物系
12-3-4 汚染化学物質の生物修復系
第13章 集積培養
13-1 集積培養の必要性と基礎原理
13-2 実験室における微生物の集積培養
13-2-1 培養条件を調節した微生物の集積培養
13-2-2 培地条件を調節した集積培養
13-2-3 土壌還流法
13-2-4 集積培養の例
13-2-5 微生物の分離における集積培養の盲点
13-3 集積培養の今後
13-4 自然界における微生物の集積
13-5 生態培養を基本とした集積培養
13-5-1 バッチ培養における集積培養
13-5-2 カラム培養における集積培養
13-5-3 還流培養における集積培養
13-5-4 連続培養における集積培養
13-6 機能特性および分布特性を利用する集積培養
13-6-1 窒素固定菌の集積
13-6-2 キャピラリーを用いる集積培養
13-7 新しい集積培養を考える
13-7-1 集積培養における新戦略
13-7-2 集積培養におけるタイム・スパン
第14章 培養困難な微生物の増殖
14-1 水圏由来の培養困難細菌の有効利用を目指して
14-1-1 はじめに
14-1-2 天然水圏でVBNCとなる魚病細菌の検出
14-1-3 好熱性細菌VBNCの培養・単離
14-1-4 環境ホルモン分解菌の単離・培養と有効利用
14-1-5 おわりに
14-2 培養困難な土壌細菌の増殖
14-2-1 土壌細菌にとって培養とは
14-2-2 平板計数法のいくつかの問題点
14-2-3 コロニー出現の“待ち時間waiting times”
14-2-4 土壌中の多様な細菌のコロニー形成
14-2-5 培養困難な細菌の解明の現況と探究の行くえ
第15章 微生物群の多様性解析技術
15-1 培養による微生物群の多様性解析技術
15-2 遺伝情報による微生物群の解析
15-2-1 核酸の構造
15-2-2 DNA構造のユニークさと相補性結合を利用した特異的DNA配列の検出
15-2-3 RNA
15-2-4 rRNA
15-2-5 PCR法
15-2-6 アガロースゲル電気泳動
15-2-7 プライマーデザイン 413
15-3 多様性解析法
15-3-1 PCR増殖したDNA配列による多様性解析
15-3-2 DNAフィンガープリント法の問題点
15-4 ゲノム配列による多様性解析
15-4-1 DNAの熱変性と再結合曲線
15-4-2 メタゲノムアプローチ
15-4-3 DNAからゲノムへ
第16章 地球を培地とする微生物の増殖工学
16-1 地球における古細菌とその役割展望
16-1-1 古細菌とは
16-1-2 古細菌の系統,代謝,脂質
16-1-3 特殊環境に生息
16-1-4 極限環境生物と思われた古細菌が地球上にどこにでもいるらしい
16-1-5 新しい古細菌・メタン酸化古細菌,地球上の炭素サイクル
16-1-6 環境中のいろいろな新規脂質・新規微生物の可能性
16-2 鉄や硫黄を食べる微生物
16-2-1 はじめに
16-2-2 鉄や鉄鉱石を食べるバクテリアたち(鉄酸化細菌)
16-2-3 硫黄を食べるバクテリアたち(硫黄酸化細菌)
16-2-4 酸性を好むバクテリアたちの生態解析
16-2-5 酸性鉱山廃水の微生物生態系の温度およびpH依存性
16-2-6 今までの技術,思考の反省と未来への指向
16-3 バイオフィルム――微生物の生存戦略を生かす
16-3-1 はじめに
16-3-2 Bacillus subtilisによるバイオフィルム形成の分子機構
16-3-3 有害微生物制御因子としてのバイオフィルム
16-3-4 軟鋼の腐食防止剤としてのバイオフィルム
16-3-5 バイオリアクターとしてのバイオフィルム
16-3-6 バイオレメディエーションの観点から見たバイオフィルム
16-3-7 おわりに
16-4 大地の微生物の営み
16-4-1 炭素循環の担い手としての営み
16-4-2 窒素循環の担い手としての営み
16-4-3 土壌有機物の不思議と微生物の営み
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