サクラソウの目 第2版

−繁殖と保全の生態学−
表紙
鷲谷いづみ著

ISBN4-8052-0775-2

四六判/248頁

\2,000+税



概要

かつては身近な野草でありながら,絶滅危惧植物となってしまったサクラソウを主人公に,野草の暮らしぶりや花の適応進化,虫や鳥とのつながりを生き生きと描き出し,野の花と人間社会の共存の方法を探っていく.保全生態学の入門書としても大好評だった初版に,大型プロジェクトによるサクラソウ研究の分子遺伝生態学的成果を加え,保全生態学の基礎解説も最新の記述に改めた.

目次

プロローグ

1章 サクラソウとの出逢い ―― 花の多様性に魅せられて
 出逢いに心惹かれたもの
 生き物好きと多様性好み
 江戸の粋人も楽しんだ花の多様性
 荒川のサクラソウ自生地のその後
 大正期に天然記念物に
 今、野生のサクラソウは
 悲しい自生地

2章 プリムラとサクラソウ
 サクラソウ科とプリムラと
 プリムラの起源地
 プリムラの原始的・派生的形質
 日本のプリムラの仲間たち
 園芸植物としてのプリムラ

3章 時空のはざまをぬって ―― サクラソウの生活史
 芽生えるタイミングを計るたね
 二次元成長するクローン植物
 肉眼で見分けられるクローン
 落葉樹林のサクラソウの光条件
 クローン成長によって無性的に生き続ける

4章 花は誰のために咲くのか
 ヒトにとって花は 
 緑でない器官は居候 
 適応形質としてみた花の形質
 圧倒的な両性具有の世界
 他殖と自殖 
 必要な二種類のパートナー ―― 配偶者と花粉の運び手
 花が気を引こうとするのは

5章 瞳の秘密
 どちらの瞳がお好き? ―― タイプは二つ
 瞳の違いを読む ―― ダーウィンに始まる研究
 パートナー確保のために進化と崩壊を繰り返す

6章 絶滅が忍び寄る
 森や湿原が陸の孤島となってゆく
 生育場所の分断・孤立化はなぜ絶滅をもたらすか
 気づかないうちに忍び寄る絶滅
 種子生産を制限するもの
 ポリネータを失った個体群に予想される未来

7章 消えたパートナーを追う
 パートナーの昆虫を探して
 訪花昆虫とポリネータ
 有効なポリネータは植物の成長様式によって多種多様
 ついにパートナーをみつける
 花粉の見事なつき分け
 つめあとは語る 
 サクラソウの種子生産が映すもの
 サクラソウの存続を許す景観
 失われたパートナーを取り戻すために
 ポリネータセラピーに向けて

8章 サクラソウをめぐる生き物のネットワーク
 種子生産に影響する生物因子を洗い出す
 植物を食べる虫の害
 ちょっと迷惑な居候、ハナムグリハネカクシ
 クロホ病と奇妙な酵母 ―― 「等花柱花がいっぱい」の謎
 サクラソウの保全と未来

9章 遺伝子の多様性を探る
 大型プロジェクトによる遺伝子の研究
 南へ北へ、残されたサクラソウ自生地を訪ねる
 各地でのサクラソウ保全の取り組み
 「種内の多様性」のいろいろ
 サクラソウの地理的遺伝変異と保全の単位
 
10章 遺伝子流動からみた植物の保全
 小さな個体群の遺伝的なハンディキャップ
 種子の動きが遺伝子流動を支配する
 近交弱勢の遺伝的背景
 近交弱勢を測定して遺伝的負荷を知る
 
11章 なぜ生物多様性を守るのか
 ヒトが進化しなかったとしたら
 ヒトによる地球環境の改変
 人類の幸せに欠かせない「生態系サービス」で地球環境を評価する
 ミレニアム生態系評価が明らかにした環境危機
 生物多様性は地球環境のバロメータ
 どのように生態系を管理・再生すればよいのか
 生物多様性とは何か
 新しいパラダイムの誕生
 階層性を含む生物多様性の概念
 生物多様性の喪失が意味するもの
 生物多様性の危機の評価 ―― レッドリストの種

エピローグ

 あとがき
 参考文献
 索引
 著者紹介

●COLUMN
 特別天然記念物田島ヶ原サクラソウ自生地
 英国のプリムラ
 サクラソウの種子を人工的に発芽させる
 自然選択による進化と適応度
 近交弱勢が起こる仕組み
 異型花柱性
 ダーウィン、死んだハチで実験する
 生理的自家不和合性
 他殖促進の仕組みとしての異型花柱性はどのように進化してきたか?
 スーパージーンモデルを用いたシミュレーションによるサクラソウの未来
 いろいろな水準のポリネータ利用性と近交弱勢を仮定したとき、長花柱型、短花柱型、および等花柱型の頻度はどう変化していくか?
 盗人からパートナーへ
 ミレニアム生態系評価から、数字で把握できる「改変」のいくつか