生物多様性緑化ハンドブック
豊かな環境と生態系を保全・創出するための計画と技術
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亀山章監修
小林達明・倉本宣編集
ISBN4-8052-0766-3
A5判/340頁(カラー口絵4頁+本文336頁)
\3,800円+税
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概要
外来生物法が施行され,外国産緑化植物の取扱いについて検討が進んでいる.本書は,日本緑化工学会気鋭の執筆陣が,従来の緑化がはらむ問題点を克服し生物多様性豊かな緑化を実現するための理論と,その具現化のための植物の供給体制,計画・設計・施工のあり方,および,これまで各地で行われてきた先進的事例を紹介する.
目次
巻頭言 亀山 章
用語解説集 小林達明
プロローグ 植物を動かすことを考える 倉本宣
第一部 生物多様性緑化概論
第1章 生物多様性保全に配慮した緑化植物の取り扱い方法―「動かしてはいけない」という声に応えて 小林達明・倉本宣
1.1 緑化は常によいことか
1.2 生物多様性に関わる緑化植物の問題
1.2.1 基本的な用語の定義
1.2.2 植物の導入がもたらす生物多様性への影響
1.2.3 侵略的外来種をつくる生態系の要因
1.2.4 侵略的外来種になる植物側の要因とWRA
1.2.5 雑種形成と浸透性交雑
1.2.6 種内の多様性
1.3 植物を移動させてもいい地域の範囲
1.3.1 植物の取り扱いにおける地域の考え方
1.3.2 進化の歴史を守るという自然保護観と遺伝学的単位
1.4 侵略的外来種をどのようにチェックするか
1.4.1 外来生物法における「特定外来生物」の考え方と課題
1.4.2 緑化の現場における外来種の使用指針
1.5 地域性をどのように把握するか
1.5.1 生物相から見た国土区分
1.5.2 遺伝的特性を考慮した地域区分は可能か
1.5.3 自然保護の地域制度と植物取り扱いに関する地域区分との関係
1.6 生物多様性を向上させる緑地計画・設計はどうあるべきか
1.6.1 緑地の計画
1.6.2 緑地の設計
1.7 地域性種苗をどのように供給するか
1.7.1 種苗供給の現状
1.7.2 侵略性のない種苗の供給
1.7.3 地域性種苗の生産と供給
1.7.4 委託生産
1.7.5 現場産資源の再利用
1.7.6 野生植物資源利用における倫理
1.7.7 その他の大切な点
1.8 生物多様性緑化の基本指針8カ条
第2章 緑化ガイドライン検討のための解説―植物の地理的な遺伝変異と形態形質変異との関連 津村義彦
2.1 はじめに
2.2 遺伝的変異の創出要因と維持機構
2.3 地理的な遺伝変異とその形成要因
2.3.1 種および生態的特性による違い
2.3.2 気候変動に伴う集団サイズの縮小または拡大
2.3.3 地理的隔離と遺伝子流動
2.3.4 浸透性交雑
2.3.5 地理的な遺伝的変異を阻害するその他の要因
2.4 遺伝的変異と形態形質との関連
第二部 生物多様性緑化の実践事例
第3章 遺伝的データを用いた緑化のガイドラインとそれに基づく三宅島の緑化計画 津村義彦・岩田洋佳
3.1 はじめに
3.2 遺伝的攪乱の少ない緑化のための種子源の探索方法
3.3 分子マーカーを用いた遺伝構造の評価結果の応用
3.4 分子マーカーによる評価を遺伝的分化の指標として用いることの是非
3.5 三宅島の治山緑化のための種子源の探索と緑化計画
第4章 ミツバツツジ自生地減少の社会背景と庭資源を用いた群落復元 小林達明・古賀陽子
4.1 房総のミツバツツジ類の地域的特性
4.2 房総山地におけるミツバツツジ類自生分布域の変化
4.3 ミツバツツジ類山採りの実態と社会背景
4.3.1 町の変化
4.3.2 村と山の変化
4.4 山採りの実態
4.5 ミツバツツジ保護運動の展開
4.6 苗木生産と市場流通による山採りの抑制効果
4.7 庭資源利用の問題と里山再生の課題
第5章 アツモリソウ属植物の保全および再生のための種子繁殖技術の可能性と問題点 三吉一光
5.1 はじめに
5.2 アツモリソウ属植物の栽培と増殖の現状
5.2.1 アツモリソウ属
5.2.2 絶滅の危機にあるアツモリソウ属
5.2.3 アツモリソウ属植物の栽培
5.2.4 人工繁殖の現状
5.3 ラン科植物における種子からの人工増殖
5.3.1 研究の歴史
5.3.2 非共生発芽法によるアツモリソウ未熟および完熟種子からの繁殖
5.3.3 アツモリソウ完熟種子からの発芽促進
5.3.4 ランの植え戻し
5.3.5 完熟種子からの増殖方法がもたらすもの
第6章 地域性種苗のためのトレーサビリティ・システム 松田友義
6.1 はじめに
6.2 トレーサビリティ・システムとIPシステムにおける識別問題
6.3 地域性種苗の供給とIP機能に重点を置いたトレーサビリティ・システム
6.4 おわりに
第7章 地域性苗木の生産・施工システム―高速道路緑化における試み 上村惠也
7.1 はじめに
7.2 道路緑化用苗木の苗木の区分と適用
7.3 地域性苗木の生産システム
7.3.1 高速道路建設の流れと法面樹林化の検討
7.3.2 地域性苗木の生産
7.4 地域性苗木の植栽施工
7.5 地域性苗木のさらなる技術開発
7.5.1 苗木の生産効率の向上
7.5.2 播種による緑化技術の開発
7.6 おわりに
第8章 地域性苗木の適用事例と今後の供給体制 高田研一
8.1 地域性苗木の必要条件
8.2 地域性苗木を使った緑化事例
8.2.1 安房峠道路緑化
8.2.2 王滝村ダム浚渫土法面緑化
8.2.3 神流川ダム原石山跡地緑化
8.2.4 地域性苗木の適用事例から得たいくつかの留意点
8.3 地域性苗木の入手確保の問題
8.3.1 地域性苗木の入手確保
8.3.2 地域性苗木の入手と適用にあたっての課題
8.4 生産者側から見た地域性苗木
8.5 まとめ
第9章 在来種の種子を用いた法面緑化工法 吉田寛
9.1 はじめに
9.2 播種工による法面緑化の特徴
9.3 厚層基材吹付工を応用した斜面樹林化工法
9.3.1 在来種の種子の採種
9.3.2 在来種の種子の調整・貯蔵
9.3.3 木本種子の早期発芽力検定
9.3.4 厚層基材吹付工2層吹付システム
9.4 播種工による木本群落の形成事例
9.4.1 常緑広葉樹林
9.4.2 落葉広葉樹林
9.4.3 常緑落葉混交林
9.5 おわりに
第10章 埋土種子を用いた耕作放棄水田における湿生植物群落の再生 中本 学・関岡裕明
10.1 取り組みの概要
10.2 湿生植物群落の再生に必要な維持管理
10.2.1 維持管理作業の実施方針と実施内容
10.2.2 休耕田管理の効果と課題
10.2.3 維持管理作業の工数
10.3 耕作放棄水田の埋土種子試験
10.3.1 埋土種子試験の必要性
10.3.2 試験方法
10.3.3 試験結果
10.3.4 現地試験と埋土種子試験の比較
10.4 まとめ
第11章 緑化における森林の土壌シードバンクの利用 細木大輔
11.1 森林表土利用緑化工法の概要
11.2 土壌シードバンクとは
11.3 暖温帯林の土壌シードバンクの一般的性質
11.4 森林表土を用いて法面を緑化した際に成立する植物群落
11.4.1 FM唐沢山における研究事例
11.4.2 山梨県大月市における研究事例
11.5 施工における留意点と今後の課題
第12章 表土ブロック移植技術を用いた森林生態系の移植とその効果 河野 勝
12.1 はじめに
12.2 表土ブロック移植の考え方
12.3. 表土ブロック移植の手順
12.3.1 表土ブロック移植調査
12.3.2 表土ブロック移植計画
12.3.3 表土ブロック移植施工
12.3.4 モニタリングと維持管理
12.4 表土ブロック移植を用いた「森のお引越し」
12.4.1 「森のお引越し」の考え方
12.4.2 高速道路の建設における「森のお引越し」
12.5 「森のお引越し」の効果
12.6 おわりに
第13章 根株や多年生植物ソッドを用いた植生復元 養父志乃夫
13.1 はじめに
13.2 根株を用いた植生復元
13.3 多年生植物の表土ソッドを用いた植生復元
13.3.1 湿地の植生復元
13.3.2 雪田創元と池塘での植栽復元
13.3.3 土手草地の植栽復元
13.3.4 表土ソッドの生産と利用
第14章 水辺緑化と水辺植物の地域性種苗―植生護岸技術と種苗生産から維持管理まで 辻盛生
14.1 水辺緑化の必要性
14.2 植生護岸の形成に向けて
14.2.1 水辺緑化における一年生草本
14.2.2 植生護岸を形成する植物の条件
14.2.3 使用する植物苗
14.2.4 工法の選定
14.3 水辺植物の生産
14.4 水辺緑化における地域性種苗
14.4.1 地域性種苗の必要性
14.4.2 地域性種苗の入手
14.5 水辺植物の委託生産
14.5.1 委託生産作業の概要
14.5.2 委託生産コストの試算結果
14.5.3 生産期間および対応可能植物種
14.5.4 委託生産における課題
14.6 カルス培養によるヨシの種苗生産技術
14.7 水辺緑化における維持管理
14.7.1 維持管理の目的
14.7.2 維持管理の担い手
14.7.3 維持管理の省力化に向けて
14.8 まとめ
第15章 カワラノギクの生態・遺伝と個体群の保全・復元における市民活動 倉本 宣
15.1 はじめに
15.2 カワラノギクの特性
15.2.1 保全生物学の研究対象としてのカワラノギク
15.2.2 種内レベルの多様性に関わるカワラノギクの特性
15.2.3 危機にあるカワラノギク
15.3 カワラノギクの繁殖生態学
15.3.1 ポリネータ
15.3.2 部分的自家不和合性
15.3.3 地理的変異
15.3.4 ボトルネック
15.4 人工個体群問題と市民
15.4.1 人工個体群問題
15.4.2 局地個体群の発達および衰退の指標の調査
15.4.3 生育地
15.4.4 人工個体群問題を市民活動との関係から検討する
15.4.5 新しい局地個体群の発見
15.5 カワラノギクの野生のあり方をめぐる最近の課題
15.6 まとめ
第16章 自然復元のための整備と管理―千葉県立中央博物館生態園の事例―:大野啓一
16.1 自然復元の考え方
16.2 自然復元の二つの段階と二つの立地
16.3 生態園とは
16.4 整備段階の課題
16.5 管理段階の課題
16.5.1 時の経過を待つ
16.5.2 管理方針の策定―自然の過程を尊重する
16.5.3 日常管理の立案と実施
16.5.4 スタッフと作業内容
16.5.5 種の導入と除去
16.5.6 在来種の多様化を図るための工夫
16.6 まとめに代えて
コラム1 予防原則
コラム2 外来植物によって得られる便益評価の難しさ
コラム4 エコロジカルインベントリーの重要性
コラム3 生物多様性・景観のリージョナリズムと植物利用のグローバリズム
コラム5 雑草(weed)とは
コラム6 園芸植物と野生植物
コラム7 除草の文化
あとがき 小林達明
用語解説 小林達明
生物名索引
事項索引
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