森の敵森の味方

ウイルスが森林を救う
表紙
品切れ重版未定

片桐 一正著

ISBN4-8052-0495-8

四六判/256頁

\2,000+税



概要

森林に農薬はふさわしくない.害虫と呼ばれる虫でも,森林のもつ自然治癒力の中で食い止めるべきだ.昆虫のウイルス病の研究者である著者が,微生物天敵を用いた森林昆虫の生物防除・総合防除について貴重な成功例とともに述べながら,今後の森林の維持管理法,森林保護の方向性を探求する.

目次

第1章 森林をとらえなおす
 1 高尾山での衝撃
 2 森林を問う
 3 森林は一つの生物体
 4 樹木は骨格、消費者は循環器

第2章 森林のホルモン、リンパ液
 1 天敵が森林の健康を守る
  天敵とは何か
  土着天敵による健康強化
 2 昆虫は森林の健康指標
 3 昆虫の病気と天敵微生物
  昆虫の天敵、伝染病
  昆虫ウイルスはウイルスの元祖?
  多彩な病原集団バクテリアと軟化病
  虫体にカビやキノコを生やす菌類と硬化病
 4 昆虫が害虫になるとき
  木の葉を食う昆虫は害虫か
  限界水準を認識しよう

第3章 ウイルスが救った森林
 1 高尾山モミ林とハラアカマイマイ
  モミ林の暴れん坊、ハラアカマイマイ
  ハラアカマイマイの生態
  発生の記録
  梢頭病と発生消長
  発病と狂乱
 2 梢頭病はウイルス病
  核多角体病ウイルス NPV
  昆虫類にのみ病原性を示すバキュロウイルス
 3 ウイルスはどこにいるか
  確率論と潜在説
  否定できない潜在説
 4 高尾山モミ林にウイルスをまく
  農薬散布がリズムを狂わす
  自然の反抗に学ぶ
  ウイルス利用を計画する
  ウイルスを増やす
  ウイルスを散布する
 5 ウイルス病流行パターンを追う
  流行が起こった
  NPV と CPV
  大発生の終焉
  誘蛾灯は語る

第4章 森林を守る微生物天敵
 1 松毛虫とカビ病
  日本の国とマツ
  マツの受難期
  松毛虫の大発生
  マツカレハの生態
  多様な天敵類
  潮風が吹くと毛虫が腐る
  マツカレハのカビ病黄きょう病
  胞子の風伝染
  越冬習性と菌利用
 2 カラマツ林を守るエントモフトラ菌
  カラマツ林とマイマイガ
  マイマイガの生態
  疫病に倒れるマイマイガ個体群
  発生密度とカラマツ林の被害
 3 ブナ林と冬虫夏草
  ブナアオシャチホコの大発生
  劇的な終息をもたらす冬虫夏草サナギタケ

第5章 微生物天敵とエコパソロジー
 1 小さな衛兵たちはどこから来てどこへ行くのか
  月光仮面かスーパーマンか
  環境に潜在する衛兵たち
 2 エコパソロジーの勧め
  三つの研究戦略
  個体群の質を問う

第6章 天敵微生物の実用化
 1 マツカレハと CPV
  細胞質多角体病ウイルス CPV
  感染する細胞が決まっている
  激しく流行しない風土病
  CPV 散布とその反応
  CPV現地生産、林内保存
  微生物農薬第一号
  安全性の保証
 2 苗木を守るカビ
  根切り虫の被害
  こがねむし菌の利用
  こがねむし菌の効果
  先人たちの優れた思想

第7章 森林保護の思想――農業技術とは異なる発想
 1 森林のホメオスタシスを信じる
  人工林は多様性が小さいか
  森林の調整力とタイムスケール
 2 森林保護の理念
  危機から救うのが保護なのか
  昆虫の食害に森林は抵抗する
  森林の構造と保護
  生物多様性だけで森林生態は語れない
 3 非農薬的防除法はどこまで森林に適用できるか
  生合理的防除法
  生物的防除法
  総合防除と BT 剤への疑問
  森林保護にはバイオテクノロジーはいらない
  流域単位の森林保護
 4 松食い虫のこと
  老僧のつぶやき
  松林を犯す内部の敵、外部の敵
  新しい視点で取り組む
  松食い虫問題の今後

第8章 臨床森林学の勧め――これからの森林保護を考える
 1 近代科学と森林保護
 2 林業と森林学
  科学が隠蔽してきたもの
  臨床森林学に基づく疎放林業の確立を
 3 森林保護と森林学
  宮大工西岡常一氏の話
  環境保護と林業は両立する

 おわりに
 参考文献
 索引

 コラム
 虫屋のおとしぶみ
 星がわき出す顕微鏡――天文の世界、ウイルスの世界
 マイマイガ地域種の性力の差――九州女と東北男
 いい寄るのはゆっくり、あきらめは速い――マイマイガの性態
 マイマイガ雄に好かれた夫人――強力フェロモンの話
 不夜城の危険――眠らない松毛虫はウイルス病にかかりやすい
 虫屋の慈悲の心
 松食い虫の予言――松枯れ流行の始まりとマツの放置