コンピュータ分子薬理学

表紙
P.M.ディーン著
江崎 俊之訳

ISBN4-8052-0401-X

A5判

448頁/\6,311+税



概要

薬物-受容体相互作用の分子理論のあらましを,最近20年間に計算化学から得られた研究成果に重点を置いて,体系的に解説した.読者は,理論分子薬理学が到達している最も進んだレベルの研究成果,さらにはその将来の展望について,的確な知識を習得することができるはずである.

目次

 はじめに

第1章 薬物‐受容体相互作用の理論の発展
 1.1 受容体の概念
  1.1.1 J. N. Langley
  1.1.2 P. Ehrlich
  1.1.3 再び Langley に戻って
 1.2 薬物‐受容体相互作用の初期の化学理論
  1.2.1 A. V. Hill
  1.2.2 A. J. Clark と占有理論
 1.3 拮抗作用
 1.4 生物学的活性
  1.4.1 固有活量
  1.4.2 有効性と刺激
  1.4.3 余剰受容体
  1.4.4 固有有効性
 1.5 刺激‐応答相関
  1.5.1 刺激の連鎖と機能的相互作用
  1.5.2 受容体‐効果器共役に対する変換器モデル
  1.5.3 受容体とイオンチャンネルの間の変換器共役
  1.5.4 変換器共役と機能的拮抗作用
  1.5.5 イオン通門
 1.6 協同作用
  1.6.1 負の協同作用
  1.6.2 ニコチン様アセチルコリン受容体(nAchR)における正の協同作用
 1.7 薬物‐受容体相互作用における分子的機序
  1.7.1 薬物‐受容体複合体の生成を左右する分子的因子
 1.8 薬物‐受容体相互作用と計算化学

第2章 分子の幾何学的構造
 2.1 なぜ我々は正確な幾何学的情報を必要とするのか?
 2.2 解析幾何学と行列変換
  2.2.1 分子座標系
  2.2.2 解析幾何学における基本的な関係
  2.2.3 基本行列変換
 2.3 結晶学用語
  2.3.1 単位格子
  2.3.2 結晶軸と直交軸
  2.3.3 構造決定
  2.3.4 中性子回折
 2.4 結晶データの利用
 2.5 分子構造のデータベース
  2.5.1 Cambridge 構造データベース(CSD)
  2.5.2 分子幾何データファイルのコンピュータ解析
  2.5.3 Brookhaven タンパク質データバンク
 2.6 タンパク質の構造
  2.6.1 化学組成
  2.6.2 X 線回折用のタンパク質の結晶
  2.6.3 電子密度分布図
  2.6.4 構造の精密化

第3章 分子内力と分子間力
 3.1 各種の力を計算するための方法
  3.1.1 電子分布
  3.1.2 静電エネルギー
  3.1.3 誘起エネルギー
  3.1.4 分散エネルギー
  3.1.5 近距離エネルギー
  3.1.6 相互作用エネルギーの計算
  3.1.7 原子‐原子対ポテンシャル
 3.2 分子動力学
 3.3 分子内力
 3.4 薬物‐受容体相互作用における水素結合
  3.4.1 水素結合の幾何学的構造
 3.5 分子静電ポテンシャル
  3.5.1 静電ポテンシャルの計算
  3.5.2 分子静電ポテンシャルの表示
  3.5.3 分子静電ポテンシャルの利用
 3.6 疎水的相互作用
  3.6.1 疎水性の評価
  3.6.2 分子の形状と疎水的相互作用

第4章 分子の形状のキャラクタリゼーション
 4.1 電子密度分布と分子の形状
 4.2 距離行列(DM)とデータ操作
  4.2.1 分子動力学における動画式 DM
  4.2.2 分子の重ね合わせ
 4.3 分子表面
  4.3.1 分子表面間の幾何学的相補性
 4.4 分子の柔軟性とコンホメーション
  4.4.1 配座エネルギーの計算
  4.4.2 小ペプチド単位のコンホメーション
  4.4.3 グラフによる多重ねじれ角の表示
 4.5 高分子受容体の構造
  4.5.1 タンパク質構造の分類
  4.5.2 タンパク質の構造と機能との相関
  4.5.3 核酸の構造とコンホメーション
 4.6 アミノ酸配列からのポリペプチド構造の予測
 4.7 タンパク質における動的な配座変化
  4.7.1 タンパク質における原子の運動性
 4.8 形状を表示するためのソフトウェア・システム
  4.8.1 分子構造
  4.8.2 接触可能表面の表示
  4.8.3 分子表面への量子力学的性質のグラフィック表示

第5章 リガンド結合部位
 5.1 受容体の同定
 5.2 薬物分子に対する結合部位の同定
  5.2.1 ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)
  5.2.2 活性部位
  5.2.3 NADPH の結合に対する部位点
  5.2.4 メトトレキセートに対する部位点
  5.2.5 基質の結合
  5.2.6 触媒作用の構造的機構
 5.3 結合部位の幾何学的な探索
 5.4 潜伏結合部位の同定
 5.5 部位点のサブセット
  5.5.1 DHFR への補酵素の結合
  5.5.2 DHFR への阻害薬の結合
 5.6 推論法によるリガンド結合部位のマッピング

第6章 薬物‐受容体相互作用における溶媒の重要性
 6.1 水の構造
  6.1.1 液体水
  6.1.2 高分子表面における水の構造
 6.2 結晶構造中の組織化水
  6.2.1 小分子の回りの水
  6.2.2 高分子表面における水
  6.2.3 薬物‐受容体複合体の回りの水
 6.3 溶媒環境のシミュレーション
  6.3.1 水和への超分子アプローチ
  6.3.2 水のエネルギー等高線図
  6.3.3 水和の Monte Carlo シミュレーション
  6.3.4 分子動力学による溶媒和のシミュレーション
 6.4 親水性と疎水性
  6.4.1 ヒドロパシー
  6.4.2 ヒドロパシーとタンパク質の三次構造
  6.4.3 疎水モーメント
 6.5 分子間相互作用に及ぼす水の効果
  6.5.1 誘電理論
  6.5.2 誘電媒質としての水
  6.5.3 水中におけるイオン相互作用

第7章 結合部位におけるリガンドのドッキング
 7.1 力学的柔軟性と挿入部位の形成
 7.2 隣接塩基対のアンスタッキングの際の分子エネルギーの変化
  7.2.1 骨格と塩基対の間の相互作用
  7.2.2 電場内における塩基対相互作用
 7.3 分子静電ポテンシャル
  7.3.1 電荷分布の計算
  7.3.2 (dC‐dG)・(dC‐dG)の回りの分子静電ポテンシャル
  7.3.3 ポリヌクレオチドの回りの分子静電ポテンシャル
  7.3.4 静電的な相補性
  7.3.5 薬物分子による受容体静電ポテンシャルの摂動
 7.4 受容体により誘導されるリガンドの配向
  7.4.1 横ゆれ回転
  7.4.2 偏ゆれ回転
  7.4.3 縦ゆれ回転
 7.5 電場とリガンドの配向
  7.5.1 電場
  7.5.2 核酸の塩基対の回りの方向場
  7.5.3 核酸のらせん軸に沿った方向場
  7.5.4 受容体の電場内におけるリガンドの配向
 7.6 薬物‐受容体複合体の安定性
  7.6.1 薬物‐ジヌクレオチド複合体の相互作用エネルギー
  7.6.2 ジヌクレオチド受容体における薬物誘導的な配座変化
 7.7 ドッキングの際の分子内変化
  7.7.1 薬物分子における電子分布の変化
  7.7.2 薬物分子における軌道エネルギーの変化
  7.7.3 活性部位へのドッキングの際の基質の分子内変化
 7.8 ドッキング相互作用の研究のためのソフトウェア

第8章 リガンド設計の手法
 8.1 設計課題
  8.1.1 生化学的なリード化合物
  8.1.2 リード構造への組み合わせ論的な修飾
  8.1.3 特徴抽出による可能性の組み合わせ論的な削減
  8.1.4 リガンドの合理的な設計のための創発的経路
 8.2 既知の構造をもつ結合部位へ適合するリガンドの設計
  8.2.1 ヘモグロビン上のジホスホグリセリン酸結合部位
  8.2.2 DPG 部位に適合するリガンドの構築
  8.2.3 設計されたリガンド分子に対する生物活性の検定
  8.2.4 遺伝学的な変異部位におけるリガンドの結合性
 8.3 結合部位の構造に関する情報が欠如している場合のリガンド設計
  8.3.1 化学計量学
  8.3.2 多変量解析
  8.3.3 多変量回帰分析
  8.3.4 主成分分析
  8.3.5 分子構造の記述子
  8.3.6 直線自由エンタルピー関係における分子記述子
  8.3.7 化学計量データを利用した分子設計の最適化
 8.4 コンピュータを援用したリガンドの設計
  8.4.1 受容体構造の表現
  8.4.2 仮想的なリガンド分子の組み立て
  8.4.3 分子グラフィックスによる表示
  8.4.4 コンピュータを援用したリガンドの組み立て
  8.4.5 コンピュータを援用した QSAR
  8.4.6 アンギオテンシン変換酵素(ACE)の阻害薬

第9章 今後の薬物‐受容体相互作用研究
 9.1 タンパク質工学
  9.1.1 部位特異的変異誘発
  9.1.2 タンパク質工学と高分子認識
  9.1.3 部位特異的変異誘発によるアセチルコリン受容体への修飾
  9.1.4 構造‐機能研究のための結合部位の再設計
 9.2 知識工学
  9.2.1 コンピュータ援用合成を利用した薬物設計
  9.2.2 合成反応の設計
  9.2.3 論理と発見的方法を利用した合成反応解析システム(LHASA)
  9.2.4 QSAR における人工知能
  9.2.5 コンピュータ・コードによる分子構造の表現
  9.2.6 QSAR のための構造記述子の自動選択
  9.2.7 高分子表面への水素結合性部位点の自動割付け
 9.3 スーパーコンピュータによる薬物‐受容体相互作用の計算
  9.3.1 並列処理
  9.3.2 分散型アレイ・プロセッサー(DAP)
  9.3.3 DAP 上での分子動力学計算

 おわりに
 訳者あとがき
 引用文献
 事項索引
 著者紹介